02


明日も明後日もずっとまた彼女に会えるのだと信じていた
だが名前を伝えた次の日から俺は彼女に会いに行く事ができなくなった


「ピアーズどこに行くんだ?」

出かけようとしていたピアーズを彼の父親が呼び止めた
厳しい表情でこちらを見ている父親の顔に気がついたピアーズは少し気まずそうにしながら口を開いた

「ちょっと出かけてくるだけ…」
「学校の成績を見たぞ、下がってるじゃないか。外出はしばらく禁止だ」
「そんな…!」
「お前は士官学校にいずれ行くんだろ?あの成績じゃ行けないぞ、わかったな?」

父親の言葉が胸に突き刺さった
軍人になることは自分の夢だ、だけど彼女に会いに行けなくなることはピアーズにとって辛かった
しかしここで勉強を怠れば彼女との約束も果たせなくなってしまう
唇を噛んでピアーズは自分の部屋へと戻っていった

数週間経の時間が流れた
ふぅ、と息を吐いてから身体を思い切り伸ばした
彼女と会わなくなってからもうこんなに時間が経ったのかとカレンダーを見て思った
自分がこんなに彼女の事を思っている…向こうも少しは気にかけたりしてくれているのだろうか?
自分の存在が彼女の中に残っていたらいいなと思う
いつか自分が大人になって彼女の前に恋人を連れてきて…恋人よりも自分がいいと言ってくれないだろうか?
そのように言ってもらえるチャンスはまだあるかもしれない、ピアーズは再びペンを握り締めた

勉強に集中したおかげもあってかピアーズは無事に士官学校へと入学することができた
せめて学校の寮に入る前に彼女に会いに行きたかったのだがその時間さえもなかった


* * *

「久しぶりだな…」

数年後
無事に士官学校を卒業したピアーズが実家へと帰ってきた
あの頃とは違いもう自由に行動ができる
陸軍への配属も決まったし、その報告も含めて彼女の店に顔を覗かせる事にした
通い慣れたあの道を子供のように走っていく
あの頃よりも身長は伸びた、声も少し低くなった
彼女は今の自分の姿を見てどう思うだろう?かっこいいと言ってくれるだろうか?
花屋に着いた時ピアーズは目を見開いた
そこには誰もおらず店が閉まっていたのだ、近くを通りかかった人間に思わず声をかけた
店が何故閉まっているのかを尋ねればあぁ、と短く答えて話し始めた

「殺人事件があったんだよ」
「殺人事件!?ここにいた女性は死んだのか!!?」
「いや…死んだのは彼女の恋人だけだよ」
「彼女はどこに…?」
「さぁね……ここにいても辛いだろうし引っ越したんじゃないかな?」

行き先は知らないけどね、と言ってその場を去っていく
もう一度シャッターの降りた店を眺めた
殺人事件…彼女はきっと怖い思いをしただろう
自分が通っていればこんな目に合わずに済んだかもしれない…
彼女が無事なのが唯一の救いだったのだが、どこに行ったのかわからない
今思えば名前さえもわからない
重い足取りでピアーズは家へと歩き始めた


130721


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -