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「ぐあっ!」

殴られた男は悲鳴を上げて地面に倒れた
横にいた男が鉄パイプを持って襲い掛かるのだがあっけなくやられてしまった
すべてを倒し終えた男はふぅーと息を吐いた

「助かったぜ野良犬」

パチパチと拍手をして見ていた男は野良犬と呼んだ男に近づいた
野良犬、と呼ばれている男は病院から抜け出したクリスだった

「あんた本当に強いな…一体過去に何してきたんだか……」
「さっさと金をよこせ」
「はいはいっと…」

男から金をひったくる様に奪うとクリスはその場を去っていく
へっ、と笑う男に仲間が口を開いた

「あいつ本当に何者なんだ?」
「さぁな、自分の名前すらも覚えてないんだとよ。まぁいいじゃねぇかこうして役に立ってくれてるんだしよ……只者じゃないことは確かだけどな」


* * *

ふらふらと歩きながら公園に辿り着いたクリスはベンチに座った
手には先ほど買った酒を持っており蓋を開けると飲み始める
懐から煙草を一本取り出して吸い始め空に向かって煙を吐き出した
自分は誰なのか?
一人になると何度もそんなことを考える
そして時々自分の頭の中に出てくる人たちは一体誰なのか?
今の自分にとっては頭痛の原因にもなるし思い出したくなかった

「ママー」

ふと聞こえた子供の声
そちらを見れば小さな女の子が母親と一緒に砂場で遊んでいる

――パパ!

ズキン
頭が痛くなってきたクリスは咄嗟に頭を抑えた
自分の脳内に小さな女の子が現れて手を振っている、そして片手にはぬいぐるみを持っていた
そんな彼女に食事を与えている自分の姿、そして

――クリス

自分の傍らで微笑んでくれる一人の女性
お揃いの指輪をして指先を絡めあってキスをする
とても愛おしい存在だったような気がする
この女性も女の子も、自分にとってとても大切な存在

クリスは頭を振って立ち上がると酒の瓶をベンチに向かって叩きつけた
それに気がついた母親は女の子を連れて公園を出て行った
乱れる呼吸を抑えるようにしながらクリスは唇を噛んだ


* * *

「ひどい有様ですね、クリス・レッドフィールド」

ウィスキーのボトルでトラブルになった男を殴ろうとしたクリスの手をピアーズが止めた
ピアーズの手を振り払ってクリスは近くにあった椅子に腰掛けた

「誰だお前は」
「ピアーズ…ピアーズ・ニヴァンスです」
「知らないな」

クリスは鼻で笑うとどこか行けとでも言うように手で追い払う仕草をする
だが彼は懐からPDAを取り出すと中国で起こっている悲惨な光景の写真をクリスに見せた

「何が起こってるんだ…?」
「バイオテロですよ。本当に何も覚えていないんですね……彼らはどうですか?」

次にピアーズは半年前イドニアで亡くなった隊員たちの写真を見せた
だがクリスは目を反らして見ようとしなかった
イラついたピアーズは大声を上げて立ち上がった

「見るんだ!!みんなあんたにすべてを託して死んでいった仲間たちだっ!!」
「やめろ……」
「ナナさんやクロエちゃんは!?あんたの大事な家族だろ!?」
「……!!」

そこには自分の頭の中に何度も出てきた女性と女の子の写真が写っていた
家族…だったのかもしれない
だが今のクリスにはまだ完全に思い出されたわけではない、色んな場所や人物がフラッシュバックして襲い掛かる

「もういいっ!!やめろ…っ!!」

苦しそうにピアーズの腕を振り払った
くそっ、と悔しそうにしながらピアーズは椅子に座り側に置いてあった空瓶を倒しため息をついた

「半年間死に物狂いで探した結果がこれかよ……」

ようやく頭痛が治まったクリスはふとピアーズの腕についてあるワッペンに目がいった

「BSAA……」
「……そうだあんたの帰るところだ。みんなが待ってる」
「みんな…?」

ピアーズの合図で客だと思っていた人たちが立ち上がり二人に近づいてきた
クリスはただ呆然と彼らを見つめていた

「あんたを迎えに来たんだ隊長。何がなんでも連れて行く」


* * *

「ナナさんですか?」
『ピアーズくん?どうしたの』
「……隊長を見つけました」

クリスが見つかったとの知らせにナナは息を呑んだ
数週間前にクリスに似た人物を見つけたとの知らせは聞いていたのだが、まさか本人だったとは

「そ、それでいつ帰ってくるの?」
『…すみませんすぐには連れて帰れないです。中国でバイオテロが起こってそれの任務に俺たちは当たってるんです』
「……そっか……あのクリスと話がしたいんだけど…」
『……それもできないです。今の隊長には記憶がありません…ナナさんどころか俺たちの事すら覚えていません』

鈍器で頭を殴られたかのような衝撃に襲われた
ようやく彼に会えると思っていたのに、運命はなんと残酷なのだろうか
電話の向こうで泣いているナナに気がついたピアーズは優しく声をかける

「ナナさん。任務が終われば隊長は必ず俺が連れて帰ります、約束します」
『………わかった、ピアーズくんクリスをお願い…っ、彼を守って…』


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