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病院の監視カメラを確認すれば病院を出て行くクリスの姿が映っていた
とりあえず地元の警察にも協力してもらってクリスの捜索をお願いした
ベンチに座って顔を俯かせているナナの元へとピアーズは近づきそっと隣に腰を降ろした

「大丈夫、隊長は必ず見つかる。いや、俺が見つけます」
「ピアーズ君……」
「ナナさんは一度家に帰りましょう」
「嫌よ…!クリスが行方不明なのに家でおとなしく待ってなんていられないよ!」
「クロエちゃんはどうするんですか?」

クロエと娘の名前を聞いてナナの身体がピクリと反応した
自分がイドニアに来る前に近所の人に預けてきたのだが自分の姿が見えなくなるまで大きな声で泣き叫んでいた
きっと今も泣いていて自分を呼んでいるに違いない
クリスの捜索はピアーズに任せて自分は家に帰ることにナナは納得した


* * *

ピアーズと共にクロエを預けた老婆の家へとやって来た
扉を開ければあら、と老婆は一瞬目を見開いた後クロエの名前を呼んだ
すると奥からクロエが小走りで走ってきてナナを見つめた

「クロエ……」
「……うわああぁぁぁぁっっ…!!!」

大きな目に涙を溜めていたクロエは母親の姿に安心したのか大声で泣き出して引っ付いてきた
不安で寂しくて仕方なかったのだろう
クリスがいなくて気持ちがパニックになってしまい自分だけが不安になっていた
クロエなら大丈夫だろうとどこかで勝手に思っている自分がいた
この子にとっては父親がいない今、頼りにできるのは母である自分しかいないというのに
ナナも涙を流して力強くクロエを抱きしめた

「ごめんね…クロエごめんね…っ…もう一人にさせないから…っ!ごめんねクロエ…ママを許して…っ…」

しばらく抱きしめあう親子をピアーズは目を細めて見つめていたと同時に早くこの親子を笑顔にさせなければならない、その為にはクリスを一刻も早く見つけなければならないのだ



「ありがとうピアーズくん」

家に帰ってきた後、泣きつかれたクロエにシーツをかけてやりながらナナは言った
淹れて貰ったコーヒーに口をつけながらピアーズはいいえ、と答えた

「ピアーズくんが家に帰れって言わなければ私はクロエの気持ちに気づいてやれないままだった…子供は敏感だからクリスに何かあった事だって薄々気づいてるはずだもの」
「ナナさんの気持ちだってわかってますよ。不安で仕方ないと思いますけど…今はあなたがしっかりしなくちゃ」
「そうね……」

その時ピアーズが棚の上に置いてある写真立てに気がついて近づいて見てみた
結婚式の写真やクロエの写真…そして随分古いのか射撃大会での写真があった
トロフィーを持ったクリスとその横にはナナ…そして周りにはジルやバリーなど他の仲間たちに囲まれていた

「それね…射撃大会の時の写真なの。もう10年以上前になるかな…」
「隊長がS.T.A.R.Sにいた時のですか?」
「そう…射撃大会があるから来てくれって必ず優勝するからって…本当に優勝してくれたから嬉しかったなぁ」

懐かしい思い出に目を細めながら話すナナにピアーズも同じように目を細めた
隊長の腕はこの時からすごかったのかと思ったと同時にこの後彼は洋館事件に巻き込まれたのだろうと思い出した
今頃彼はどこで何をしているのか
BSAAの為にもそしてナナの為にも彼はなくてはならない存在だ

「隊長は必ず俺が連れて帰りますよ」
「…うん」
「それじゃあ俺は行きます」

家を出て行くピアーズにお願いね、と頼んだ
彼を見送ってからナナはソファーで寝ているクロエの頭を優しく撫でて祈るように目を閉じた


130710


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