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「やだ!クロエおひるねしない!パパが帰ってくるまで待つの!」

ぬいぐるみを力強く抱きしめてクロエは無理矢理寝かしつけられていたベッドから飛び出してリビングへと走っていく
娘のわがままに困り果てながらナナはふとカレンダーを見た
29日だ。そろそろクリスからいつ帰るのか連絡をくれてもいいのに彼から何の連絡もなかった
一応仕事に行く前にはニューイヤーは絶対に家族と過ごすと言っていたのでそれまでには帰ってきてくれるはずだ
クロエもクリスからの電話を楽しみにしているのだが連絡がなくてなかなか言う事を聞かなくなってしまった
もういちどクロエをベッドに戻すためにリビングへと向かった時ちょうど電話が鳴った
その音を聞いたナナは笑顔でクロエの方を向いた、ソファーの上に立っていたクロエは目を輝かせて「パパだ!」と大きな声で言った
子機を取って声をかけてみればクリスではなくピアーズだった

『ナナさん…』
「あ…ピアーズ君、どうしたの?………クリスは?」

嫌な予感がした
どうしてクリス本人ではなくピアーズが電話をかけてくるのか
そして彼から告げられた言葉にナナは子機を地面に落とした

『もしもし?もしもし!?』
「ママーでんわおとしたよ?パパからだったの?ママ、ねぇママってば」

返事をせずに呆然と立っているナナの手を揺さぶるのだが何の反応もしなくてクロエは頬を膨らませると子機を手にとってしゃべりはじめた


* * *

クリスが大怪我をして病院へ運ばれた
ピアーズからそう聞かされたナナはいてもたってもいられなくなり鞄に荷物を詰めるとクロエの手を引いて近所に住む老婆の所へと足を運んだ
クリスのことを伝えてクロエを預かってもらう事にしたのだ
ナナはクロエの目線に合わせるように屈んでやり両肩を掴んだ

「クロエいい子にしててね」
「ママどこにいくの?クロエもいっしょにいきたい」
「……すぐに帰ってくるから待っててね」

お願いします、と老婆に頭を下げてナナはその場を立ち去る
立ち去る自分の背中に向けてクロエが大声で泣き叫んでいる声が聞こえた
心の中で謝りながら溢れそうになる涙をこらえてタクシーを拾うと空港へと向かった


* * *

あちこちに怪我をして手当てをされたクリスがベッドの上に寝かされていた
彼は未だに目を覚ます様子はなかった
BSAAの本部に連絡を終えたピアーズがクリスの部屋に戻ってきて自分が出て行ったときとなんら変わっていない様子にため息をついた
側に置いてある椅子に座って彼は声をかける

「隊長…ナナさんがこちらに向かってきてるそうですよ。よかったですね…今の隊長のその姿を見たらナナさんきっと泣きますよ、目を覚ましたらどうです?」

そう話しかけてみるが当然クリスが目を覚ます様子はない
もう一度声をかけようかと思ったときピアーズの携帯が鳴った、相手はナナからだった
もうすぐ空港に着くとの連絡が入ったのだ。迎えに行くと返事を返すとピアーズはそのまま部屋を出て行った
残されたクリスの手がピクリと動いた、ゆっくりと目を開けて自分の身体につけられているものをすべて外したと同時に酷い頭痛に襲われた
頭の中に出てくるのはイドニアで失ったBSAAの隊員たち、そしてナナやクロエの顔……

「誰だ……お前らは……っ…」

消すように頭を横に振って痛む身体を抑えながらベッドから立ち上がり部屋を出て行った


「クリスは…無事なの?」

ピアーズにイドニアの空港まで迎えに来てもらい車に乗り病院へ向かう途中でナナはクリスの容態を聞いた

「怪我は酷いですが命に別状はないそうです…今は眠っていてその内目を覚ますと思いますが…」
「そう……」
「……大丈夫、ナナさんが来たら隊長だって目を覚ます」

彼なりの優しい励ましにナナはうっすらと微笑むと早くクリスに会いたい気持ちで一杯になった
病院に着いて車から降りるとピアーズに案内されて病室へと向かった
扉の前でナナは一度深呼吸して気持ちを落ち着かせるとノックをして部屋に入った
だがベッドにはクリスがいなかった
異変に気がついたピアーズはすぐにナースコールを押してクリスがいなくなったことを知らせた


130707


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