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「あーうー!」

洗濯物を取り込んでいたナナがクロエの大きな声に気がついて近づいて様子を見てみた。すると手に何かを握っていたので取ってみればそれはクリスの時計だった
今朝彼が出かける前に時計が見つからない、と出発するギリギリまで探していた事を思い出した
時計を返して、と言わんばかりにクロエは母親のスカートの裾を引っ張る
代わりにクリスがクロエに買ってあげたぬいぐるみを渡してやればそちらに夢中になって遊び始めた
ふと手にした時計をナナは見つめた
時計がなくてクリスは困っているかもしれない、届けてあげた方がいいかもしれない
こうして彼の仕事場に行くのは彼がS.T.A.R.Sの時以来だろうか

「クロエ、パパに会いに行こうか」


* * *

重なっていた書類の束が床に落ちていく
あー、と声を出しながらクリスが椅子から立ち上がって拾おうとした時にピアーズが先に書類をすべて拾ってクリスの机の上に置いた

「すまんピアーズ」
「いいえ」
「そういえば今何時だ?」
「もうすぐ昼前ですね、って隊長時計はどうしたんですか?」
「今朝から見つからなくてな…よかったら一緒に飯でも食うか?一服してくるから先に食堂に行っててくれ」
「わかりました」

クリスが先に部屋に出て行くとピアーズはふと彼の机の上に置かれている写真に目をやった
彼の娘の写真と…妻が一緒に写っている
微笑んでいる写真の中のナナに彼は目を細めるとそのまま部屋を出て行った

廊下を歩いていたところで隊員たちが赤ん坊を抱えた一人の女性と何か話し合っている様子が見えた
只事ではないな、とピアーズがそちらに向かって声をかければ全員が彼の方を振り向いた

「どうした?」
「クリス隊長の奥さんが忘れ物を届けにきたと…」

ナナに目線をやってピアーズは大きく目を見開いた
自分を見つめてくる彼の様子にナナは警戒して見ていたが隊員の一人がピアーズに声をかけると我に返ったかのように何でもない、と答えると自分に任せるように隊員たちに言って彼らをその場から去らせた

「隊長の奥さんと…娘さん?」
「はい。ナナと娘のクロエです」
「ピアーズ・ニヴァンスです」

握手を交わした後クリスは喫煙所にいることを伝えるとそこまで彼女を案内することにした
娘を抱きなおした後、しばらく廊下を進んでいたナナが何かを思い出したかのように声を上げた

「あなたがピアーズね?クリスから色々と聞いてるわ、射撃の腕が上手だって」
「……まぁBSAAに来る前に訓練ばかりしてましたからね」
「でもその結果役に立ってる。良い事だよ」
「……そうですね、こうしてあなたにも会えましたし」

小声で何かを言ったピアーズに聞き取ろうとしたナナだったのだがその前に喫煙所に着いた
扉をノックしてピアーズが顔を出すとクリスが少し目を丸めてどうした、と尋ねてきた
ナナが来たことを伝えるとクリスはすぐに煙草を灰皿に押し付けて喫煙所に出てくると彼女の姿を確認して微笑んだ

「ナナ、それにクロエも…どうしたんだ?」
「クリスが探してた時計見つかったの、この子が隠してたみたい」
「そうか……クロエ悪い子だな」

ナナからクロエを受け取って高く持ち上げてやれば嬉しそうに足をバタバタとさせていた。その姿にクリスは微笑むとクロエを抱いてピアーズのほうへと目線をやった

「案内してくれてありがとうピアーズ」
「いえ、気にしないで下さい」
「クリスもうすぐお昼でしょ?サンドイッチ作ってきたの、よかったら食べる?ピアーズ君も」
「え…!?いいんですか?いただきます!」
「なら外に出て公園にでも行くか、その方が上手いだろ」

クリスの提案にナナもピアーズも微笑んで頷いた


* * *

昼食を食べ終えた後ピアーズはそのままシートの上でくつろいでいた
公園といってもBSAAの敷地内にあるので他に家族連れなどは当然いなかった
クリスは食べ終えると普段なかなか遊んでやる事ができないクロエを抱いて歩き回っていた、鳥に反応を示せば指をさして種類を教えてやり時々高く持ち上げてやれば可愛らしい声が響き渡った

「隊長にも…あんな顔があったんですね」
「クロエにはあんな感じよ。BSAAの隊長とは思えないでしょ?」

仕事場ではいつも厳しい顔をしている彼が家族の前ではとても優しく微笑んでいる
普段見たことのない表情にピアーズは苦笑していた

「ピアーズ君」
「はい?」
「……クリスの事お願いね。家庭でのクリスの事を知らないように、私は仕事場での彼がどんなのかわからないから…危険な仕事をしているって事ぐらいだし……無茶をする場面もあるから」
「隊長を守ってくれって事ですよね?」

心配するナナにピアーズが優しく声をかけた
自分では彼を守る事ができない、かといってクリスも自分自身で身は守れる
だがそれでも心配なのだ
そんな自分の気持ちを察してくれたピアーズにナナは頷いた

「お願いしていい?」
「…えぇ、安心してください。隊長は俺が守ります――何があっても」
「ピアーズ!そろそろ戻るぞ」

戻ってきたクリスはクロエをナナに渡すとそのまま彼女たちを優しく抱きしめた
抱きしめられたナナは彼の腕の中で嬉しそうに微笑んだ
そんな彼らを見てピアーズは目を細めて見つめていた


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