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新聞を読んでいたクリスの元へナナがコーヒーを運ぶ、それに彼はお礼を言うとふと娘を見つめた
自分専用のベビーチェアに座りテーブルに置かれた食事を手で掴んで遊んでいる
この時期の赤ん坊は食べるというよりは遊ぶ事の方が多い
読んでいた新聞を畳んでクリスはナプキンで綺麗に拭くと側においていたスプーンを手に取りマグカップの中から少量掬うとクロエの口元へと持っていく

「クロエ、あーん」
「あー」

口元へと持っていってやれば小さな口を開けて食事を食べ始める
ただ食べているだけでも二人にとってはその姿がとても可愛かったのだ
ふと時計を見れば出勤時間が迫っていた事に気がついて椅子から立ち上がるとそのままナナの唇にキスをした

「いってくる」
「いってらっしゃい」
「クロエ、いい子にしてるんだぞ」

父親に頭を撫でられて嬉しそうに笑うと足をバタバタとさせた
ふっ、と微笑んでクリスはそのまま家を出て行く
車に乗って出て行く夫を家の窓から見届けたナナはまだ食事が終わっていないクロエの元へ行きスプーンを握り締めた

「クロエ、あーん」


* * *

バンッ!!

訓練所に銃声が響き渡り一人の若者が見事に真ん中の的に命中させた
それを見た周りの仲間がおぉーと声を上げる
だが若者は周りが声を上げてもそれに動じずそのまま銃を背負って建物の中へと入っていく
武器庫に銃を置いて部屋を出たところで数人の男たちがニヤニヤしながらこちらを見ていた
そのまま無視して横を通り過ぎようとしたのだが一人の男が声をかけて肩を掴んで来た

「おい待てよ」
「何だよ」
「…今日も立派だったなぁピアーズよぉ…士官学校を優秀な成績で卒業して、その狙撃能力でここに来たらしいが…調子に乗るなよ」
「別にそんなつもりはない」

男の手を振り払って行こうとしたのだが、その態度が気に入らなかったらしく再び壁に押し付けられた

「その態度がムカつくんだよっ!!どんだけ狙撃能力が高くてもな…隙を突かれたらてめぇなんかすぐに死んじまう!覚えとけ」

ピアーズを突き飛ばすと男たちは出て行く
残されたピアーズは男たちが出て行った方向を睨みつけながら部屋へと戻った
唯一自分が寛げる場所、ベッドの上にドサッと倒れこむと目を閉じて息を吐いた
射撃をしていると神経を使うためどうしても疲れてしまう
そして一人でいると色んなことを考えてしまう

自分は何のために戦っているのか…

曽祖父の代から軍人家系に生まれた。祖父の写真や父の制服を見て自分もその道へ進むのだと決めていた
士官学校へ行き優秀な成績で卒業し、陸軍特殊部隊へとやってきた
だが何のために戦っているのかわからずにいた
とにかく腕を落とさないようにと訓練に打ち込む日々だ
このまま自分はここにいてあの男たちから嫌がらせを受ける日々を受けるのだろう
まぁ男たちを黙らせる事などいくらでもできるのだが
自分だって鍛えているのだ。あの男たちに負ける気などしない


翌日
再び訓練をしていたピアーズを遠くから見つめている男がいた
そうクリスだ
クリスはじっと鋭い目つきでピアーズが射撃に打ち込んでいる様子を見つめていた
見事に的を当てていく彼の腕にクリスは自分に近い何かを持っていることを感じた
射撃を終えたピアーズの元へとクリスは近づいて声をかけた

「いい腕をしているな」
「…あんたは?」
「BSAA北米支部所属のクリス・レッドフィールドだ」

男の名前を聞いたピアーズは少し目を見開いた
そして小さくだが彼の名前をもう一度復唱した
BSAAは聞いたことがあった知らないものなどいないだろう
そしてクリスの名前も

「BSAAが…俺に何の用だ?」
「お前の狙撃の腕を見ていた。見事だ…ぜひお前に俺の部隊へ来て欲しい」
「あんたの…?」

彼からのスカウトにピアーズは考える
BSAAに行って何か変わるのだろうか?何のために戦っているのかわからない自分なのに

「あんたは…何の為に戦っているんだ?」

ピアーズからの質問にクリスは目を見開いていたが
やがて喉の奥で笑い始めた
突然笑い出した彼にピアーズは眉間に皺を寄せて見つめる
彼の表情に気がついたクリスはすまん、と謝って口を開いた

「数年前の俺と同じだなと思ってな」
「数年前…?」
「……そうだな、俺は仲間の為…家族の為に戦っている」
「仲間……」
「詳しく聞きたければ俺の部隊へ来い、きっとお前が戦う理由も見つかるぞ」

そのまま背中を向けて歩き出すクリスをピアーズは見つめていた
たった数分会話をしただけなのに何か彼に惹きこまれた
先に歩き出しているクリスに声をかけると彼はこちらを振り向いた

「……あんた恋人いるのか?」
「…妻がいる。娘も、それがどうかしたのか?」
「…いや、なんでも」

彼の質問にクリスは少々疑問に感じていたが再び歩き出した
ピアーズはそれを聞いて少し考えていた様子だった


130623


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