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俺は何の為に戦っている?
何度頭の中でそう問いかけただろうか?
ジルを失ってからもう3年の月日が流れてしまった、それからも何人か仲間を失っている


ナナが用意してくれた朝食を食べ終えてクリスは煙草を吸い、一服していた
食べ終えた食器を洗い終えるとタオルで手を拭きながら彼女が口を開いた

「今日…久しぶりにジルのお墓に行こうと思うんだけど…」
「……あぁ行って来るといい」
「……クリスは来れないよね?」

寂しそうにこちらに聞いてくるナナにクリスはすまなさそうに頷いた
彼の仕事に正確な帰宅時間など存在しない
2、3日家を開けることなど当たり前なのだから
灰皿に煙草を押し付けて彼は立ち上がると行って来る、と彼女にキスをして家を出て行った
いってらっしゃい、と小さく呟いてナナはクリスを見送った
どんなに大きな事件があっても、災害があっても、大切な人が亡くなってもいずれ人々の記憶から忘れ去られていく
ジルの死ももう何人が忘れていったのだろうか


* * *

「これが現場の写真だ」

BSAAの本部に着いたクリスはさっそく仕事に取り掛かっていた
アフリカでバイオテロが起こりその時の現場の写真を見せられた、写真に写っている男は現場に来たBSAAの隊員を突然変な奇声を上げて襲い掛かってきたらしいのだ
襲い掛かってきた男はきっとウィルスが関係しているだろうとクリスは眉間に皺を寄せた
バイオテロを起こした男はリカルド・アーヴィングだという情報も掴めている
だがアフリカで起こったのだから当然これに対処するのはアフリカのBSAAの組織だ

「クリス…これは噂だが、聞いて欲しい……リカルド・アーヴィングと関わっていた男を捕らえた時にこの男が気になることを言っていてな」
「気になること…?」
「……ジルが生存している、と言ったんだ」
「!!」

ジルが生きているという言葉にクリスは目を大きく見開いた
部屋を出て行こうとした彼を同僚は急いで止めた、リカルドと関わっていた男はすでに自殺してこの世にいないらしい
詳しく聞こうにも聞くことができなかった
悔しそうにクリスは壁を叩いた後、ふと何かを思いついたように顔を上げた

「…俺もそのアフリカの任務に協力する」
「え?」
「ジルを見つける」

決意を決めたクリスの目にもう何も言えなかった
彼はオリジナルイレブンの特権を使い、アフリカ支部のアルファチームに加わる事になった。
アフリカでのバイオテロを収めることももちろんだがジルの情報を必ず掴んでやろうとクリスはさっそく支度を始めるため家へと帰宅した

クリスの車のエンジン音が聞こえたナナはソファーから立ち上がって玄関へと向かった
帰ってきたクリスを見るなり驚いて彼に尋ねた

「ど、どうしたの?」
「ナナ、急ですまないがしばらく家を開ける。アフリカに飛び立つ」
「え?アフリカ…?」

自分の部屋に入って鞄に服やら下着やらを詰め込み始めるクリスにナナは見ているしかできない
突然アフリカに行くなんてどうしたのだろうか?

「ジルが生きているかもしれないって情報が入ったんだ」
「え……ジルが……?ほ、本当なの!?」
「それを確かめる為に行ってくる」

さっさと準備を始めるクリスにナナは堪らなくなって彼の大きな背中に抱きついた
抱きしめられたクリスは思わず手を止めた
抱き疲れるのは嫌ではないのだがこのままでは準備ができない
彼女の手を放そうとしたときだった

「クリス落ち着いて」
「!」
「…ジルの情報を掴めたのは嬉しい事だけど、焦りは禁物だよ……焦って周りの事が見えなくなった時が一番危ないんだから」

落ち着いた彼女の声色にクリスは冷静さを取り戻した
そして自分の胸にある彼女の小さな手の上に自分の大きな手を重ねた
確かに周りが見えなくなっていた、ナナのたった一言で冷静さを取り戻せる
彼女は自分にとって本当になくてはならない存在だ

「ありがとうナナ……」
「クリス、気をつけていってきてね」


130603


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