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数ヶ月の月日が流れた
悲しみを乗り越えクリスは変わらず任務をこなしていた
だが一つだけ変わった事があった
彼は一人での仕事ばかりになったのだ。新しくパートナーを紹介されたのだが断ったらしい、相棒を失った恐怖が未だに心のどこかにあるのだろう
仲間を失う悲しみをまた背負うぐらいなら一人で任務に赴き、死ぬのがいい


(鍵がかかっているな)

ドアノブを握り締めたクリスだが開かない。何度かガチャガチャと動かしてみるが向こう側から鍵がかかっているようだった

「ジル…すまないが……」

つい、いつものクセで彼女の名前を呼んだ
しかし呼んだ後思わずハッとなった。ジルはもういないし、今現場には自分一人しかいないのだ
ドアを見て小さな小道具を使って鍵を開けるジルの姿が思い浮かんだ
小さく首を振ってクリスは扉を思いっきり蹴って銃を構えた
中にいた目的の人物が入ってきたクリスに驚いて思わず両手をあげた

「BSAAだ」


* * *

買い物に出かけていたナナは夕飯は何にしようかと考えながら歩いていた
クリスは今日早く帰ってくるのだろうか?もし早いのなら今日は奮発してステーキでも焼こうかと…その時ナナの視界に一軒の店が写り足を止めた
そう、彼女の目に入ったのは数年前にジルと出かけた下着屋だった
そういえばあの時普段自分が履かないような下着を彼女に無理矢理買わされたっけ、と思い出してくすくすと笑ってしまった
だけどもうジルはいないのだ。また二人で出かける事などできないのだ
ジルの事を思い出せばまた気持ちが落ち込んでしまう、ナナは急いでその店を離れた


その日の夜遅くにクリスは帰宅した
ナナが用意してくれたステーキがテーブルに置かれていた、食べる前に彼女の様子を覗こうと部屋の扉をそっと開けたときだった
ベッドの上で蹲っているナナの姿が見えたのでクリスは声をかけた

「ナナ…起きてたのか?」
「ぁ…クリス、おかえり」

彼に気がついたナナはうっすらと微笑んだ
ベッドへと近づきクリスは腰を降ろすと彼女の背中を優しく撫でた

「…嫌な夢でも見たのか?」
「…ううん……ただ、ジルの事思い出したら眠れなくなっちゃって…」

自分も任務中にジルの事を思い出していた
まさか彼女も思い出していたなんて、人々が彼女の存在を忘れていく中
自分たちにとってジルがどれだけ大きな存在だったか…
ナナの肩を引き寄せて優しく抱きしめる、頭に顔を埋めれば甘いシャンプーの匂いがクリスの鼻を擽る
ちゅ、と優しくキスを落としてそのままベッドに寝かせてやった

「もう遅い…寝るんだ」
「…眠れそうにないよ…」
「大丈夫だ…俺もすぐにベッドに入るから」

ナナの額を優しく撫でてからクリスは部屋を出て行く
あそこで自分も任務中にジルの事を思い出していた、と言えば二人で気分が落ち込んだままになっていただろう
切り替えなければならない。ジルの死をまずは自分が乗り越えなければ


130528


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