第5話


「…まさかまたお前に会えるなんてな…」
「ピア君…私も嬉しいよ!!」
「……約束覚えてるか?俺と結婚してくれナナ」
「っ…!ピアくーーーーーーん!!!!!」

ドサッ!
ピアーズに抱きついたナナだったがそれは叶わなかった
目を開ければ視界が反転している。どういうことなのだろうかと自分の体制を見てみればベッドから落ちたようだった
夢か…とため息をついてナナは体制を立て直す
だけど幸せな夢だった、それにピアーズは自分の担任だし今日から毎日彼に会うことができるのだ

「ふふっ…今日から学校が楽しみだなぁ〜」
「ナナー!!いつまで寝てるの!?さっさと準備しなさーい」

ニヤニヤしていた顔も母親の言葉で一気に冷めてクローゼットから急いで制服を取り出すと着替え始めた


(あ、危なかった…ギリギリセーフ)

ぜぇぜぇと呼吸を乱しながらナナは教室に駆け込んで自分の席に座る
ちらりと横を見ればジェイクの姿がなかった
昨日の事もあったので彼の姿がなくてホッとしていたのもつかの間、後ろの扉が開いてジェイクが教室に入ってきた
彼と目を合わせないように背中を向けたナナにジェイクは口を開いた

「おいブス…昨日はよくもやってくれたな」
「な、何よ!ジェイクが悪いんじゃない」
「…あの野郎も益々気にいらねぇ、一発殴らなきゃ気がすまねぇな」
「え……」

殴るという言葉にナナは思わずジェイクの方を見た、彼は指の関節を鳴らすと行儀悪く机の上に足を乗せた
チャイムが鳴ると同時にピアーズが教室に入ってきて朝の連絡事項を伝えに来た
大好きなピアーズの姿を見ることができて嬉しいナナなのだがジェイクの殴る、という言葉が頭から離れなかった

(ピア君を守らなきゃ…私にしかできないもの!!!)

ピアーズに手出しできないようにナナは今日1日ジェイクを見張る事を決意した


* * *

「こんな簡単な問題も解けないのか?1年の復習だぞー?」
「…すみません」

英語の授業の時間
この問題を解いてみろ、と教師に言われて当てられたナナなのだが彼女は勉強が苦手だった。その為間違った答えを言ってしまいみんなの前で恥をかいてしまったのだ
座っていいと言われて着席したナナ。教師はそのまま横にいるジェイクを当てた
だが彼はめんどくせぇ、と一言返した
その言葉と態度に当然教師の眉間に皺が寄る

「わからないならわからないと素直に言っていいんだぞ?」
「…わからねぇワケじゃねぇよ。マヌケ」

椅子から立ち上がったジェイクが前に詰め寄ってくる、教室の生徒たちもそして教師も思わず息を呑んだ
まさか教師に暴力を振るうのでは、と誰もがそう思った
しかしジェイクはそのまま教師の横を通り過ぎるとチョークを手に取り答えを書き始める
すべての問題を解き終えたジェイクは手を払って自分の席に着いた
教師は彼が書いた答えをすべてチェックした後口を開いた

「せ、正解だ…」

周りから拍手されるがジェイクはふん、と鼻を鳴らした
心のどこかで間違えればいいのにと思っていたナナは目を見開いていた

(う、嘘だ…普通こういう不良は頭が悪いっていう設定なんじゃないのー!?)
「お前、俺の事馬鹿にしてただろ?」
「ソンナコトハゴザイマセン」

ジェイクに図星を突かれてぎこちなく答えるナナ
そんな彼女に向けて彼は口を開く

「さて…あの野郎はいつ殴りにいくかな…」
「!!」

ピアーズの事が出たナナはハッとなってジェイクを睨んだ
彼女の反応がおもしろいのか、ジェイクは口の端を上げた
ちょうど授業終了のチャイムが鳴ったと同時にジェイクが立ち上がったのでナナも立ち上がって彼の後を追いかける

「何だよ」
「どこ行くのよ」
「どこへ行こうと俺の勝手だろ」
「ピア君のところに行くつもり?」
「さぁな」
「……やめてよ」

腕を捕まれて振り払おうかとジェイクはナナを見下ろした
すると彼女はうっすらと涙目になっていた
大好きなピアーズが殴られて怪我をするところを想像しただけで悲しくなるし、自分でジェイクを止めたくても止められないし怖い

「ピアくんには手を出さないで…お願い…」
「……んで、テメェはアイツの事ばかり……」

小さく呟いたジェイクの言葉はナナには届いていない
ピアーズの為に自分に頼み込んでくる彼女に唇を噛むとジェイクは口を開いた

「俺の…下僕になるってんなら……考えてやってもいい」
「え…?げ、下僕!?」
「嫌ならべつにいいぜ」

嫌いな男の家来になるなんて真っ平だった
だけどピアーズを守るため、ナナにはこの選択しかなかった
ゆっくりと首を縦に振って彼女は頷いた
彼女の出した答えにジェイクは満足そうに口の端を上げた


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