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「それじゃあいってくる」
「いってらっしゃいクリス、気をつけてね」

唇を重ねて出勤するクリスに手を振って見送るナナ
車に乗る前にクリスも片手を上げるとそのまま仕事場へと出かけていった
車が見えなくなるまで見送った後家の中へと入っていくとクリスと一緒に朝食を食べていたのでその皿がテーブルに残っていた
何枚か重ねて炊事場へと運ぶと水道の蛇口を捻りスポンジに何度か洗剤をつけて洗い始める
棚の上には結婚式の写真が写真立てに入れられて飾られている
結婚式から数週間後、毎日が充実していてとても楽しく暮らしていた
クリスも気を使ってくれているのか早めに帰って来てくれている、本当に忙しければ遅くなっても構わないと言っているのだが本人は気にしなくていいと優しく言ってくれた
食器を洗え終わったナナは次は部屋の掃除でもしようか、と何気に窓の外に目をやったときだった
これから幼稚園や小学校に向かう子供たちの姿と、それを見送る母親の姿が見えた
本当なら自分たちにもあの年代の子供がいてもおかしくないのだ
クリスと暮らし始めた同棲時代から何度か身体は重ねている、避妊した時もあればしなかったときもある
だがそれでも未だに二人に子供は恵まれなかった
やはり一度目の流産で自分はもう子供が産めない体になったのかもしれない
クリスは子供はいなくてもいいと言ってくれるのだがそれはきっと本心ではないだろう
自分はクリスとの大好きな人との子供が欲しいと思っている
気分が暗くなってしまう、とナナは首を横に振って切り替えた


* * *

「オズウェル・E・スペンサー…」

ジルから渡された資料に目を通しながらクリスは呟いた
イギリスの名門貴族出身の生物学者だ、エドワード・アシュフォードやジェームス・マーカスらと共にアンブレラを設立した会長でもある
彼はアンブレラ倒産後行方をくらましていたのだがBSAAの情報によると彼の別邸に隠れているとの情報を手に入れたのだ
BSAAは彼の逮捕が目的だった

「もしかしたら彼なら…」
「あぁ……"ヤツ"の居場所を知ってるかもしれないな」

クリスとジルの頭の中にある一人の人物の姿が思い浮かぶ、二人のかつての上司でもあり。ナナと元恋人を襲った男……

「ウェスカー……」
「…この作戦参加する?今夜だけど」
「………あぁ」

上に伝えてくる、とジルは部屋を出て行った
彼女が部屋を出て行ったのを見送るとクリスは携帯を取り出して自宅へと電話をかけた
掃除機をかけていたナナが自宅の電話のベルが鳴っている事に気がつくとスイッチを切って走って受話器を取った

「ナナ、俺だ」
「クリス…どうしたの?」
「今夜仕事で帰れなくなった、夕飯はいらないから先に寝ていてくれ」
「……危険な仕事なの?」

不安そうに尋ねてくるナナの声にクリスは何も言えなくなった
危険といえば危険な仕事だからだ
何も言ってこないクリスにやっぱり、とナナは内心思った

「大丈夫だ、ちゃんと君の所に帰るよ」
「……」
「約束する」
「……うん、わかった」

電話を切り終えてクリスは目を閉じ心の中でナナに謝る
心配かけさせることは申し訳ないのだが自分の仕事をしている上では仕方なかった
彼女も自分の仕事を理解した上で結婚してくれたのだ
今夜上手くいけばウェスカーの居場所を吐かせて彼を捕まえてナナへの償いをさせる


* * *

その日の夜
スペンサー邸へと侵入したクリスとジルは数年前、自分たちが巻き込まれた洋館に似た雰囲気に戸惑いながらもスペンサーを探し屋敷の中を探索した
途中で巨大な錨を持った化け物に襲われたり、地下に落ちたりもしたが何とか奥へと辿り着く事ができた
そこは今までとは空気が違っていた。奥に間違いなくいる
扉の前までやって来たクリスはジルと顔を見合わせると勢いよく扉を開けて中へと進入した
そこには胸を貫かれて床に倒れている目的であったスペンサーとそして宿敵のウェスカーがそこに立っていた
彼は背中を向けていたのだがゆっくりとこちらに振り向いて不敵に微笑んだ

「ウェスカー!!」

クリスが叫んだと同時に銃弾を放った
しかし人間とは思えないすばやい動きでウェスカーは二人の銃弾をあっさりと交わすとクリスの銃を落としボディに一発叩き込み顎に向けて殴る
次にジルの首を掴んで持ち上げる、彼女は苦しそうにしながら抵抗する
しかしすぐにクリスがウェスカーに殴りかかったのだが腕を捕まれて地面に叩きつけられる。ナイフを取り出したジルが彼に挑むが数メートル向こう側の壁へと飛ばされた
棚のガラスが割れてジルはその場に蹲る
クリスが再びウェスカーに何度も殴りかかるが首を捕まれて数メートルテーブルの上へと引きずられるとそのまま投げ飛ばされた
荒い呼吸を整えながらジルがクリスの方向を見つめればウェスカーが苦しそうにしている彼に詰め寄っている姿が見えた
ウェスカーはクリスの首を掴んで持ち上げた

「貴様ともここで終わりだクリス、お前を殺した後…数年前に仕留め損ねたあの女も殺してやるから安心して逝け」
「ぐっ…!!」

口の端を上げて微笑むウェスカーをクリスは睨みつけた
ここで自分が死ねばナナもこの男に殺されてしまう、ウェスカーが左手で彼の胸を貫こうとした瞬間だった
走りこんできたジルがウェスカーに飛び掛りガラスを破ると二人はそのまま崖の下へと落ちていった
クリスは急いで起き上がると崖の下へと落ちていったジルに向かって大きな声で叫んだ

「ジルーーーっっっ!!!!!」


130512


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