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浅い呼吸を繰り返しながらクリスは街の中を走っていた。自分が走っていたときは街は静まり返っていたのだがしばらく時間が経てば皆起き出す時間になりちらほらと歩いている人が見えた
角を曲がったところでようやく自分の家に着いたクリスは持っていたタオルで汗を拭きながら家の中へと入った
彼が帰ってきたことに気がついたナナはおかえりなさい、と声をかけて水の入ったコップを彼に手渡した

「ありがとう」
「これからシャワー浴びるでしょ?その間に朝食準備しておくね、後着替えも」
「あぁ、頼む」

浴室へと向かうクリスを見送るとナナは寝室のクローゼットからクリスの着替えを取り出す。その時彼のシャツを見てみれば破れた後があった
そういえばこの服は数年前から着ている服だ、と思い出す

ジルと買い物に行った日からすでに数年の月日が流れた
毎日ジムに通っていたクリスは昔と見違えるほど逞しくなった、ラクーン時代の人間は誰もわからないだろうなと笑っていたクリス
それだけ彼は変わったのだ
服が破れているのももしかしたらキツイのかもしれない、とナナは洗面所へと向かった
扉をノックして中に入ればシャツを脱ぐのに格闘している彼の姿が目に映った

「クリス?」
「すまないナナ、脱ぐの手伝ってくれないか?」
「引っ張るよ?」

手を上へと伸ばし引っ張ってやればようやくクリスが顔を覗かせた
脱がせた彼のTシャツを見れば伸びてしまっている

「服…キツイんじゃない?昔より大分逞しくなったし…」
「んー…そうかもな、今日用事があるから買ってくるよ。ありがとう」

ナナの唇にお礼のキスをして浴室へと入っていく
少し見えたクリスの厚い胸板にドキドキしながら朝食の準備をしなければと彼女はキッチンへと向かった


* * *

「じゃあいってくる」
「帰りは遅くなるの?」
「いや、今日は仕事はないし……気分転換に出かけてくるだけだからすぐ帰るよ」

出かける準備をしたクリスをナナは玄関まで見送る
今日は彼は仕事はなく休みなのだ、家で一緒に過ごせるだろうと密かに楽しみにしていたナナだったのだが彼も出かけたいときはあるだろうと自分を納得させた
いってらっしゃいのキスを交わして彼を見送ると家の中へと入った
家の中に入った彼女の姿を確認したクリスは急いで車へと走り乗り込んだ
そう、彼の用事はとても重要な事だった
ナナと暮らし始めてから数年の月日が流れた、彼女の傷も大分癒えたように思えたし男としてそろそろけじめをつけようと決意したのだ
彼女と出会って数年、一時期は離れ離れになったこともあるが忘れた事は1度もなかった
すでに夫婦みたいな暮らしをしているが、ちゃんと形にしたいのだ

車を走らせて数十分後
一軒の店の駐車場に車を止めて中へと入っていく
クリスに気がついた店員が微笑んで彼に声をかけた

「いらっしゃいませレッドフィールドさん」
「指輪を取りに来た」
「はい、できております」

カウンターで待っていれば奥から店員が小さな箱を持ってやって来た
それをクリスの目の前に差し出し箱を開ければ二つの指輪が入っていた
一つは自分用、もう一つはナナの指輪だ
ナナの指輪を手にとって上へと向ければキラキラと輝いたダイアモンドが目に映る
再び箱の中に戻すと彼は店員にお礼を告げて店を出た

車を走らせて自宅に着いたクリスは車の中でもう一度指輪の箱を開けた
このまま家に帰ってプロポーズをする、まさかこんなにも緊張するとは思っていなかった
だけどもう夫婦っぽい事はごめんだ。彼女が自分の苗字を名乗り、夫と呼んでくれることを夢見ていたのだ
車から出たクリスは自宅へと向かう、玄関の扉を開ければナナが顔を覗かせた

「おかえりなさいクリス、早かったね」
「……ナナ。話があるんだ…こっちへ」

クリスに手を引かれるままリビングへとやって来る
一体どうしたというのか、ナナは首を傾げて彼の言葉を待つ
改まるととても緊張する。一度深呼吸してクリスは口を開いた

「…俺たちが出会ってもう随分経つな」
「?うん…10年、とまではいかないか…10年近く…だね」
「…色々あった、本当に……」
「……うん」
「………ナナ、俺はあの日君と出会った日からずっと大事にしたいし守っていきたいと思ってた。覚えてるか?初めてデートした日の事」
「うん……楽しい思い出を作ろうって言ってくれて、公園で一緒にサンドウィッチを食べて……最後には指輪を買ってくれて…」
「そうだ……ナナとの将来を考えていた」

クリスは彼女の前に跪くと小さな箱を取り出して開ける
中に入っていた指輪に気がついたナナは思わず両手で口元を押さえた
婚約指輪だった

「俺と結婚してください」
「クリス……っ」

指輪を取り出して彼女の左手の薬指にはめればピッタリと収まった
何度もジルに確認したから当たり前なのだが
ナナの左手を握ってクリスは立ち上がり彼女を見つめた
涙を流してナナは彼を見つめている

「返事は…?」
「……私でいいなら……ううん、クリスじゃなきゃ嫌…」
「ナナ」

力強く抱きしめてクリスはナナの唇を塞いだ
ここまで長かったと本当に思う
ようやくナナと一緒になることができたのだ


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