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クリスの家を出てからジルは車のスピードを上げて走り出す。陽気な音楽を鳴らしながら楽しそうに運転していた

「嬉しそうねジル」
「そりゃそうよ、ナナとこうして出かけるのは何年ぶりかしら」

ラクーンの悲劇が起こる前まではジルの休みが合えばよく出かけていた
疲れているにも関わらずよく自分を連れて色んなところに連れて行ってくれたのだ
時には「刺激も必要よ」という彼女に言われて射撃場やダーツバーなどにも連れて行ってもらった事があったなぁと思い出す
銃声には驚かされて腰を抜かす事も多かった、ジルや周りの客に笑われたのもいい思い出の一つだ

「何ニヤニヤしてるの?」
「ん?ふふっ…ちょっと昔の事思い出しちゃって……うん、そうだね私もジルと久しぶりに出かけられて嬉しいな」
「今日は思いっきり楽しみましょ」

ウィンクしたジルはペダルを踏んで更にスピードを上げた
昔はもう少し安全な運転をしていたのに…とナナは苦笑していた


最初にやって来たのは下着屋だ
2枚ほどしか持って来ていなかったので買いに行かなければとは考えていた
しかし今日はジルもいるのだ。普通の下着を買わせてくれるわけがなかった
花柄の可愛らしい下着を手に取っていたナナの目の前に派手なピンクのTバックの下着が現れた
一瞬何かとじっくり見たナナはジルに声をかける

「ジル!」
「いいじゃない1枚ぐらいこういうの買いなさいよ」
「恥ずかしいわ…こっちでいい」
「ダメよそんなのじゃ!あなたももういい年なんだし、これとこれも買いなさい」

ナナの手に渡されたのはゼブラ柄とヒョウ柄の下着だ。自分のような地味な女が履くような下着ではない。胸も尻もそこそこある女性が履けば似合うであろう下着だ
絶対に自分には着れないのに
だがいつまでも子供のような下着を着けているのもどうかと思うのは確かにある
自分ももう年をとったのだ
履くかどうかはともかくジルの勢いに負けてその3着を購入してしまったのだ
その後も洋服や靴なども買いに行ったのだが、これも普段自分が着ないような服や靴などもジルに押されて買うことになった
こんな露出の多い服を着たらクリスはどんな反応をするだろうか?
驚いて顔を赤くさせるだろうか?それとも怒るだろうか?
想像したら何だか楽しくなって着てみるのもありかもしれないと思えた


「はぁーたくさん買ったわね」

近くのカフェで休憩をすることになったジルはうーんと背伸びをした
自分たちが座っていない椅子にはいくつかの紙袋が置いてある
といってもほとんどはナナの物なのだが

「他に買うものはある?」
「うーんもう大丈夫……後は夕飯の材料かな」
「あぁそうね……ってもう主婦みたいね」

ニコリと笑うジルにナナは飲んでいたマグカップをそっと置いた
主婦、それを聞いた彼女は苦笑する

「私……いい主婦にはなれないよ」
「どうして?クリスの為にこうして夕飯の事も考えてあげてるじゃない」
「……クリスの事は好きだけど、もし結婚してくれって言われたら……どうしたらいいのかわからない。だって私…クリスが子供が欲しいって望んでももうできるかどうかわからない身体だし…だったら他の女性のがいいんじゃな「やめて」

ナナの言葉をジルが途中で遮った
彼女の方を見れば怒った表情でナナを見ている
わかっているジルがこんな表情をするのは自分でも最低な事を言った
だけどどうしても不安なのだ、結婚する前は子供は要らないといっていた男性でもやはり結婚すると欲しくなるというのを聞いたことがあるし。クリスだってそう思うだろう
自分だって好きな人との子供は欲しいと思う
ナナが不安になるのはわからないわけでもない、ジルはそっと彼女の肩に手を置いた

「不安なのはわかるけど…でも聞いて、クリスは一度だってナナ以外の女がいいなんて言った事ないわ。この数年間離れていたときもいつもあなたの事を考えてた。常に1番によ」
「ジル……」
「……連れて行きたい場所があるの、行くわよ」

立ち上がったジルは紙袋を持って歩き出す
どこに連れて行くというのかナナも同じように紙袋を持って慌ててジルの後を追いかけた

車で数十分走ったところでジルはある建物の駐車場に車を止めた
そこはスポーツジムだったのだ
こんな所に連れてきてどうしたのか、無言で歩き出すジルをナナは追いかける
中に入ると色んな男たちがマシンを使って身体を鍛えている
そんな中ジルが指をさした方向を見てナナは目を見開いた
そう、クリスがいたのだ
バタフライマシンを使って何度も腕を動かしていたのだろう苦しそうに眉間に皺を寄せながら汗を流している姿が目に映った

「クリスね……今までも鍛えていたけどウェスカーがあなたを襲ったあの事件があってからもっと鍛えないとって時間さえあればここに来てるの」

ジルから聞いた言葉にナナは目が熱くなった

「他の女性でいいと思っているのならここまですると思う?」
「クリス…っ!」

涙が零れた
自分の為にここまでしてくれるクリスの努力に

「私…ずっと彼の側にいるって決めたのに……もう他の女性の方がいいなんて言わない。彼には私だけでいいの……」

クリスを見つめながら言うナナの言葉にジルも頷いて彼女の頭を優しく撫でた


130422


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