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「おはようナナ」

目の前に出された朝食に食べる気がしなかったナナは先ほどからフォークでトマトを突く事ばかりしていた
そんな中カーテンの向こう側からクリスが顔を覗かせて挨拶してきた
まさかこんな朝早くから来てくれると思わなかったので少々驚いて彼を見つめた

「ど、どうしたの…こんな朝早くに」
「気になって様子を見に来たんだ。食事もあんまり……みたいだな」
「……」

まったく手をつけられていない朝食を見てクリスは苦笑した
食べる気になどまったくなれない、その気持ちはわからないわけでもなかった
だが元々細かったナナの身体が更に痩せてしまい病人っぽく見える
彼女からフォークをとったクリスはトマトを刺すとナナの口元へと運んだ
目をパチパチとさせて彼を見つめれば少し口を開けている、食べさせてくれるようだった

「クリス……私、食べたくない…」
「駄目だ、食べないなら俺が食べさせる」

ずっとフォークを握り締めるクリスに諦めたナナは口を開けた、トマトが口の中に入るゆっくりとそれを噛む
しかし久々の食事に胃が受け付けなかったのかすぐに口元を押さえて吐き出しそうになる、クリスはすぐにフォークを置いてナナの背中を擦った
なんとか飲み込んだ彼女は荒い呼吸を繰り返しながら口を開いた

「帰ってクリス……」
「嫌だ」

キッパリと否定されてナナは首を横に振る

「お願い…」
「帰らない、これからは君の側にいるって決めたからな」

力強く抱きしめられナナはそのまま大人しく目を閉じた
本当は帰らないで欲しい、側にいて欲しかったから
クリスの背中に手を回して力強く抱きついた、彼に顎を掴まれてそのまま唇を重ねようとしたときナナは顔を俯かせた
どうしたのか、と尋ねれば小さな声で言った

「私……もう大切な人を失いたくない、クリスがこの先死なないなんて保障はないし……コーディがあんな目にあった後に私だけ幸せになるなんて……」
「ナナ……確かに俺の仕事は命がかかっていて危険な事だらけだ。死ねないなんて約束はできないかもしれない。けど俺はこれから先ずっとナナを守っていきたいんだ」
「クリス…」
「それにコーディだって……俺がもしコーディなら自分が死んだとしてもナナには幸せになって欲しいと願うけどな……」

スーパーで彼とすれ違ったとき、そして花屋でのコーディの人柄を思い出す
自分と同じタイプだろうとクリスは何となく思った
きっと彼なら自分の死をいつまでも引きずらずに幸せになって欲しいと願うはずだ
勝手な考えかもしれないが…自分ならそう思う
涙を流すナナに優しく微笑むとそのまま唇を塞いだ
角度を変えて何度も気持ちをぶつけるように
唇が離されてクリスは口を開いた

「……明日退院だろ?それと同時にこの街を出よう……俺の家で暮らそう」
「え…!?そんな急に…」
「言っただろ?俺はもう君の側にいるって決めたんだ……嫌でも連れて行く」

彼の目は本気だった
きっと嫌だと泣き叫んでも連れて行かれるのだろう
煙草を吸ってくる、と彼は部屋を出て行った
ドキドキとなる心臓を抑えながら部屋の窓から空を見つめた


130410


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