37


ナナに別れを告げられたその日の夜は一日中部屋に篭っていた
こうなる結果だというのは当然といえば当然の事だ
だけどどこかでもう一度やり直せるかもしれないと期待していた自分がいたのだ
彼女の妊娠には相当なダメージを食らった
自分の子供ではない違う男の子供が彼女のお腹の中にいる
もう自分では彼女を幸せにしてやることなどできないのだ


次の日の朝
ベッドの中にいて呆然としていたクリスの部屋の扉がうるさく鳴らされる
きっとジルだろう、だが今は出る気にもなれない
しかしクリスが出なくてもジルが勝手に部屋の中に入ってきた

「何か用か?」
「大変よクリス…昨日ウェスカーが現れたの……それも一般人の家に」
「なんだって…!?」

ウェスカーという名前を聞いてベッドの上から跳ねるように起き上がった
そしてジルの両肩を掴んで更に詳しく話を聞きだそうと詰め寄る

「その家には何の目的で入ったんだ!?」
「……落ち着いて聞いてねクリス…その一般人の家なんだけど……ナナがいる家なのよ」
「え……」

一瞬呆然としていたクリスの頭の中に昨日のナナの姿が思い浮かんだ、そしてそれは良くない方へと想像し彼女がウェスカーに首をつかまれている姿…最後には死んでしまった彼女の姿が頭の中を過ぎった

「ま、まさか……」
「大丈夫。ナナは無事らしくて近くの病院に運ばれたらしいの…ただ一緒に住んでいた彼女の恋人は亡くなったらしいけど……あ!クリス!?」

クリスは車のキーを握り締めて部屋を出て行った
いてもたってもいられない、今すぐにナナに会いたい


* * *

薬品の匂いが鼻につく
ナナはゆっくりと目を覚まして辺りを見回した、すると近くで作業をしていた看護婦が彼女が目を覚ました事に気がついて医者を呼ぶ
医者は優しく微笑んで彼女につけていた呼吸器をゆっくりと外した

「目が覚めたようだね…よかった」
「……ここは?……私……」
「……落ち着いて聞くんだ、君は倒れる前に強盗か何かに襲われたんだ」
「ごう…とう……!?」

すぐにナナは昨日の光景を思い出した
サングラスをかけた男が突然家に押し入ってきてコーディがその男にボロボロにされていた事を、自分も逃げようとしたのだが男に首を捕まれて腹を殴られたことを
思い出したのか突然腹が痛み出して片手でそこを抑える
そういえばコーディはどうしたのか?気になって医者に尋ねてみた

「あの…コーディは?彼は無事ですか?」
「…………残念ながら彼は殺されました」
「……は………っ……?」
「それから……お腹の赤ちゃんも流産しました」

医者はそう言うと苦しそうに唇を噛んだ
状況がついていけない、コーディも死んでお腹の赤ん坊も死んだと言われた
実感がわかない。これはきっと悪い夢だ
嘘だ、とナナは首を横に振った
医者は看護婦に指示を出すと彼女を車椅子に乗せて部屋を出て行く
向かう場所は遺体安置所だった
シーツをかけられた人物の側に車椅子がつけられた
医者はゆっくりとシーツをはがす、そこにいたのは目を閉じて眠っているコーディの姿だ
やっと会えた彼の姿にナナは目を細めた。少し眠っているだけ自分が声をかければ「驚いたか?」って言ってコーディは笑うんだ
ゆっくりと彼の頬に手を当ててそこでようやく現実を思い知らされる
体温が感じられずとても冷たかった、すこしシーツをめくって胸元を見れば穴が開いている。途端に吐き気が催してナナは吐きながら大きな声で泣いた


病院についたクリスは受付でナナの部屋を聞くと走って病室へと向かう
部屋の扉をノックして入ればベッドの上で呆然としている彼女の姿があった
近づいて声をかけてみれば虚ろな目で自分を見た

「ナナ…?」
「……クリス」
「……無事、だったんだな…よかった」

クリスに優しく抱きしめられる
無事だった、という彼の言葉にナナは両目から涙を溢れさせて唇を噛んだ

「……いっ、くない…良くないっ!全然よくない…っ!!コーディも…赤ちゃんも死んじゃったわ…っ!!ぜん、ぜん…よくないっ…!!」
「……ナナ」
「私が…様子をみにいけばよかった……そしたらコーディは死ななかったのにっ…!!」

大声で泣き出すナナの姿にクリスは胸が張り裂けそうになった
違う、彼女のせいではない
全部自分のせいだ。早くウェスカーを見つけていればコーディも彼女のお腹の赤ん坊も死なずに済んだ
彼女をこんなにも傷つけたあの男を絶対に許さない
そしてもう何があってもナナを離してはならない、自分が命に代えても守る
クリスは固く決心すると彼女が泣き止むまで抱きしめた


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