第11話 Anti-Hero not Cry


パトカーのサイレンの音が聞こえてナナは体をビクリ、と反応させた
窓際に移動してカーテンを少し開けてみれば10台以上のパトカーが家の周りを取り囲んでいた
どうしてもうバレてしまったのか、いやあの男が恐らく通報したのだろう
ナナは歯をギリリッと噛み締めた

「反対側の窓から逃げましょう!屋根を伝っていけばいいわ」

そう言うと彼女は鞄を持って反対側の窓へと向かい開ける
冷たい風がナナの熱くなった体を冷やしていく

「さぁビリー!」

ビリーに向かって手を伸ばすナナ
だが彼はその手を取らず首を横に振った

「何…してるの?まだ逃げられるわ」
「そんな事したらあんたも罪を被るぞ」

悲しそうに顔を伏せるビリーにナナは嫌、と首を横に振った
彼の態度を見ればわかる。彼は刑務所に行く気なのだ
すぐに彼に駆け寄って抱きついた

「罪を被ったっていいわ、貴方と一緒に生きていくって決めたもの」
「駄目だ…俺が嫌なんだ。俺のせいであんたに罪を被せたくない」
「ビリー……いいの?死刑になるのよ…?私と一緒にいられなくなるのよ…っ?」

震える声でナナは涙を流した
そんな彼女をビリーは優しく抱きしめる

「ナナと出会わなかったら…俺は逃げ続けていただろうな……だけどあんたと出会ってわかったんだ。大切な者を守るためには時には犠牲も必要だってな」
「嫌、嫌っ…嫌よビリー……っ」
「愛してるナナ」

なかなか出てこない二人に警察は痺れを切らして突入を開始したらしい
家の玄関の音がバンバンと叩きつけられる
その音の中力強く、抱きしめあう二人

このまま時が止まればいい……

「いいか?俺に脅されたって言うんだぞ?決して俺を庇うな」

バンッ!!!

玄関の扉が開けられた、数人の警察官が銃を構えている

「ビリー・コーエン!!貴様を殺人の罪で逮捕する!!!!」

それを合図に警察官がビリーとナナの体を離させた
彼は手錠を掛けられて連れて行かれる
ナナは泣き叫びながら自分を抑える警察官の体を振り切ろうとしていた

「ビリーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!!」



* * *

ビリーが刑務所に連れて行かれてから彼は事情聴取で「自分が脅していた」と言ったらしい。彼女には何の罪もないと
警察もそれを聞いてナナさんからは何の事情も聞かなかった

彼が捕まって世間は再びビリーの事件を取り上げ始めた
23人もの民間人を殺した凶悪犯が生きていた、と
しかし彼は報告では死んだことになっていたはずなのにどうなっているのか、と世間は疑問を抱いていた
しかし当時の上司は…例の生物災害でラクーンシティが消えてしまって行方がわからなくなっているので誰も問い詰められることはなかった

ビリーが捕まってナナさんは街のあちこちで「彼はヒーローだ」と訴え続けていた
しかし世間は冷たく誰も彼女の声に耳を貸さなかった
ビリーがヒーローだとしっているのは恐らく彼女と私だけだろう…

そしてビリーが捕まってから数ヵ月後……刑が執行された
彼は世間に誤解されたままこの世からいなくなったのだ

ナナさんもそれ以来街で見かけなくなったという
姿が消えてしまったのだ
何処に行ったのか消息も掴めないままだ

だけど私は彼女がどこかで生きていると信じている


手記――レベッカ・チェンバース





Fin
120715


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