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昨日の吐き気もあってからナナはずっと寝ていた
そして気がつけば次の日を迎えておりナナの誕生日だった
気分が優れたかといえばそうでもない。胸は張って先端がやたら痛むし下腹部にも痛みを感じた
1階から物音が聞こえたのでだるい身体を起こしてナナは下へと降りて行く
降りてみればコーディが店のエプロンをつけてせっせと作業をしていた
ナナに気がついた彼は作業をしていた手を止めて彼女に近づいて朝のキスを交わす

「おはよう、気分はどうだ?」
「…まだちょっと…病院に行ってみようと思うの」
「そうか…送っていくよ。それと謝らなければならないことがあるんだ」

申し訳なさそうにコーディが眉を下げる
彼が謝るのはきっとこの作業内容についてだろう、今日は自分の誕生日なので店を閉めると彼は言っていたはずだ

「俺の知り合いがパーティをするらしくってさ、急遽花の飾り付けを頼まれたんだ」
「そうなの…大丈夫よ、行ってきて」
「すまない……夕飯までには帰れると思うから、とりあえず病院に送っていくよ」
「ありがとう」

車の準備をしてくる、と答えたコーディの背中を見送った隙にナナはクリスにも電話をかけた
午前中は用事があるので午後からまた連絡をすると伝えた


* * *

さまざまな検査をしてからナナは医師に呼ばれた
もし何か大きな病気だったらどうしよう、と不安になってしまう
だが医師は不安そうにしているナナに優しく微笑みかけた

「おめでとうございます。妊娠しておられますよ」
「え………?」

ポカンとしている彼女に医師は先ほど撮ったエコー写真を見せる
説明する先生の指先を目で追いかける
彼女の子宮の中に小さくだが新しい命が宿っている事がわかった
その途端彼女の両目からボロボロと涙が零れた
自分とコーディとの赤ん坊だ

「これからは自分ひとりの身体ではないってことを自覚して生活してください」


* * *

病院を出てからナナはクリスを電話で呼び出した
彼は彼女からの電話を受け取ると車ですぐに店へと向かった
店の前に車を止めればナナがそこに立っていた、彼女は店の中へとクリスを入れて扉を閉めた

「あっ…!」

扉を閉めたと同時にクリスに力強く抱きしめられた
こうして彼に抱きしめられるのは数年ぶりだ

「会いたかったナナ…っ」
「クリス…っ」

どこか苦しそうに吐き出して言うクリスの言葉に涙が出そうになった
だけど耐えなければならない
私も会えて嬉しかった、と涙を流してはいけない。今までどこで何をしていたのか、何故自分に連絡を取らなかったのかなどと聞かない
もうクリスと縁を切ることに決めたのだから
クリスの胸の中にいたナナは固く目を閉じると彼の胸板を強く押した
押されたクリスは少々驚いて彼女を見た

「ナナ…?」
「……今日でハッキリとさせよう…私たちあの日でもう終わったのよ。私にはもうコーディがいる、今幸せなの…クリスがいなくたって全然幸せよ…っ」

最後の方はボロボロと涙が零れていた
泣くとはわかっていた、ずっと待ち続けていた相手がようやく現れたのだから
今ではコーディが好きでも、心の奥底に眠っていた感情がクリスが現れた事で再び目を覚ましたのだ。クリスを好きだという気持ちが

「……話すことはこれだけだから、もう帰って」

背中を向けたナナにクリスは何も言わなかった
これでいい、このまま諦めて帰ってくれればいいのだから
だが後ろからクリスの手が伸びてきて抱きしめられる

「好きだナナ」
「!!」
「…自惚れかもしれないがその涙は嘘だと思うんだ」
「ち、がう……」

後ろを向けばクリスの顔が近くにあった
瞳を捕らえられて逸らすことができない、彼の唇が近づいてくる
駄目だ、引っ叩いてでもこの腕の中から逃げなければ
逃げる事などできずにそのままナナはクリスと唇を重ねた

「………すき」


130403


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