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ホテルへと戻ってきたクリスはベッドの上に車のキーを放り投げる
そして手に持っていたナナの店で買った綺麗な花束を見つめた
数年ぶりの彼女との再会、相変わらず彼女は綺麗で可愛くて…だけど自分と目を合わせてくれなかったのはやはり嫌っているからなのだろうか?
嫌われても仕方ないと言えば仕方ない事だ。何も言わずに出て行った男がひょっこりと現れて帰ってきたのだから
手に持っていた花束をクリスは力強く抱きしめた、綺麗に飾りつけされたのに何本かがボキッと折れた音が聞こえた
コーディがいなければきっとこのように力強く抱きしめてキスをしていただろう
扉がノックされてクリスは花束をベッドの上に放り投げると返事を返す
ジルが部屋の中に入ってきた

「クリスどこに行ってたの?」
「……ちょっと、な」
「ちょっとって……?」

その時ジルは鼻がくすぐられるのを感じて辺りを見渡す
ベッドの上に放り投げられていた花束に目がついて近づくとそれを手に取る
綺麗に飾り付けされたのだがクリスに抱きしめられたせいもありボロボロになってしまった
どうしてこんな花束があるのか?
だが勘のいいジルは少々目を見開いてクリスに問いかけた

「……ナナの店に行ったの?」
「……あぁ」
「っ…何をしてるの!?彼女を巻き込みたくないから捨てたんでしょ?それなのに自分が会いたいからって…勝手だわ「わかってる!!!」

大声で怒鳴られてジルは口を噤んだ
彼は苦しそうにしながらベッドに座り込んで小さく声に出した

「…自分が勝手なのはわかってる……だけど、数年間離れてわかった。俺にはナナが必要なんだ……他の男に渡したくない」
「クリス……」
「彼女に連絡先も教えた……俺は彼女にすべてを話そうと思う」

決意を固めたクリスの表情にジルは何も言えなくなった
彼は本気でナナともう一度やり直そうとしている
しかし一度は捨てた男だ、信頼を取り戻すのは難しいだろう
彼女はそのままクリスに背を向けて部屋を出て行こうとする、その背中にクリスは手を伸ばそうとした時だった

「…私たちがこの街に来たのは仕事で来たのよ……それを忘れないでね」
「……あぁ」

ジルも応援してくれてるのだろうとクリスは何となく実感した
そして自分の携帯を見落とすと祈るように目を閉じた


* * *

クリスが店に現れてから数日後
ナナは自分の携帯とクリスから渡されたメモと睨みあう日々が続いていた
この電話をかければクリスと繋がる…しかしなかなかかけることができない

「ナナ、明日だな誕生日」
「え!?あ、あぁそうね…」

コーディが突然声をかけてきたことに驚きながら急いでメモをポケットにしまう
どこか様子のおかしいナナにコーディは声をかける

「なぁ…最近変じゃないか?」
「え?そ、そう…」
「……俺に何か隠してないか?…もし何かあるなら話してくれないか、明日の君の誕生日は気持ちよく迎えたいんだ」

彼の少し悲しそうな顔にナナは胸が痛んだ
そうだ、自分にはもうコーディがいる
これから先は彼の隣で生きていくのだ、こんなにも想ってくれる人を傷つけたくない
ナナは微笑むとコーディを抱きしめた

「……明日になったら全部話すわ、全部……話すから」
「……わかったよ」

コーディはナナにキスをして表へと出て行く
それを見送った彼女は携帯の番号を押す
クリスにさよならを告げるために…

携帯の着信に気がついたクリスは急いで電話を出た

『クリス……』
「…ナナ!待ってたよ」
『…クリス、話があるの。今いい?』
「待ってくれ…俺も君に話があるんだ。電話じゃ無理だ…明日にでも会えないか?」
『明日…』

明日は自分の誕生日だ
おそらくコーディと1日と過ごす為会うことなどできないだろう

「明日はダメ…」
『2時間ほどでいいんだ…頼む』
「………わかった」
『ありがとう。また連絡する』

そこで電話が切れた
クリスと直接会ってさよならを言えるのだろうか、とナナは不安になった
この前彼が店に来たときだって目を合わせられないほど心臓がうるさかったのに
だがハッキリとさせておかなくてはならない
何故今頃になって自分の前に現れたのか、自分にはもうコーディがいる事を

「ナナ!込んできたから出てくれるかい」
「えぇ……うっ…!?」

駆け込んできたコーディに返事をした時だった
突然ナナは急な吐き気が催してきてトイレへと走った、込み上げてきたものをすべて吐き出して身体を震わせた

「……まさ、か…?」


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