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久しぶりに聞いた恋人の声に懐かしさと同時に苦い想いが込み上げてきた
受話器を持っている手を震わせながらナナは何とか声を絞り出して尋ねた
本当に彼はずっと自分が待ち続けていたクリスなのだろうか?

「……ほ、っん…とうにクリス……なの?」
「……あぁ」
「そんな……どうしてイキナリ……」

その時2階から階段を降りてくる足音が聞こえてナナは急いで受話器を元の場所に戻した
そしてすぐにしゃがみこんで割ってしまった植木鉢の欠片を拾い集めると同時にシャワーを浴び終えてきたコーディが顔を覗かせた

「ナナ?すごい音がしたけど大丈夫か?」
「……ぁ、いたずら電話にちょっと驚いちゃって……」
「いたずら?まったくタチが悪いな……今度からは店を閉めた後は出なくていいよ。それより危ないから俺が拾うよ」
「ぅ…ん……」

ほうきとちりとりを持ってきたコーディは欠片を拾い始める
未だにバクバクとうるさい心臓の音に手を震わせながら押さえつけるようにする
コーディに聞こえてしまったらどうしようとさえ考えてしまう
こちらに背中を向けて手を震わせているナナにコーディは気がついて首を傾げていた


一方
電話を切られてしまったクリスも数年ぶりに聞いたナナの声に胸が一杯になった
あの時と何も変わっていない
今すぐにでも抱きしめてキスをしたい、たくさん愛したい
彼女に会いたい気持ちが益々彼の中で強くなっていった


翌日
いつも通りに店を開けて花に水をやるコーディはどこか様子のおかしいナナに気がついていた
朝起きたときに思い切って何かあったのか?と尋ねてみたのだが何もない、と返されてしまった。それにしては様子が変だった
昨日のいたずら電話に何かあったのだろうかとコーディは考える
花に水をやりながらナナはクリスの事を考えていた
何故今になって電話をかけてきたのだろうか?
ようやく忘れられそうだったのに、自分の中に封じ込めていたクリスへの想いがまた強くなっていくのを感じる

「いらっしゃいませ……あ、」

接客をしていたコーディが少々驚いたように声を上げた
なんだろうか、とナナがそちらを見て目を見開いた
そこに立っていたのは間違いない、クリスだったからだ
手に持っていたジョウロを落としそうになるのを何とか耐えた
コーディはナナを呼び出す、今そちらには行きたくないがここで行かなければ怪しまれてしまう
顔を俯かせながら一歩一歩コーディの元へ、そしてクリスの元へと近づいていく
近づいてくるナナの姿をクリスはじっと見つめていた
ようやくたどり着いてナナは何?とコーディに尋ねる

「友人に花をプレゼントするらしいんだ」
「……どのような感じで?」

目をそらしてナナはクリスに尋ねる

「君の好きなようにしてくれていい」
「わ…かりました…」

昨日も電話で彼の声を聞いたのだがやはり心臓がうるさく鳴ってしまう
数年前よりも少し声が低くなったような気がした
ナナは駆け足でその場を去っていく
その背中をコーディとクリスは見送りコーディが口を開いた

「まさか数日前に会った人がウチの店に来てくれるなんて…世の中って狭いなぁ」
「……あぁ」
「ナナに任せて下さい。彼女のセンスはとてもいいから」
「……彼女の恋人か?」
「えぇ…付き合ってもう数年になるんです。忘れられない恋人がいるらしいんですが最近は思い出さなくなったみたいで……今度の彼女の誕生日に思い切ってプロポーズしようと思ってるんです」
「……うまくいくといいな」

クリスの言葉にコーディは微笑んで彼と握手をする
握手をされたクリスは複雑な表情で彼を見ていた
その時奥からナナがやって来て綺麗に飾り付けされた花束を手に持っていた
これを彼に渡さなければならない、コーディもいる
さっさと渡して彼に帰ってもらわなければ
両手を差し出してくるクリスの腕の中に花束を渡す
その時コーディには見えないように左手をクリスに握られた、1枚の紙を渡されてナナはクリスを見つめる

「ありがとう」

微笑んでお礼を言う彼にナナの胸は熱くなった
クリスはそのまま車に乗って店を去っていく
去って行ったクリスを見送ったコーディは口を開いた

「いい感じの人だったなーまた来てくれるといいな」
「……そう、ね…」

左手を力強く握り締めて遠くなっていく車を見送った


130330


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