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「腹いっぱいだーナナの作るクリームシチューは最高だな」

最後のスープを一口すすってからスプーンを置いてコーディは満足そうに少し膨れた腹を撫でる
ありがとう、とお礼を言ってからナナは空になったコーディのコップに水を注いでやる。注いでくれた事にお礼を言ってコーディは一気に水を飲み干した

「今度君の誕生日の日は店を閉めようと思うんだけど…どこか行きたい所はないか?」
「え…そんなの悪いわ」
「誕生日の日も仕事だなんて嫌だろう?」
「それはそうだけど…自分の誕生日でも働いてる人はいるわ」
「俺がしたいんだ、いいだろ?楽しい思い出を作ろう」

ちょっとわがままな彼の言葉にナナは仕方のない人だと困ったように笑って彼の手を握った
握られたコーディはそれが承諾の意味だと受け取り彼女の手を握り返すと唇を塞いだ
目を閉じて彼のキスを受け止めるナナ
唇が離れてからコーディは目を細めて彼女を見つめる

「愛してるよナナ」
「……私もよ」


* * *

「……で、この4番地で目撃情報があったらしいんだけど」

街の地図とウェスカーの写真を広げながらジルはクリスに説明をする
だが当のクリスは先程スーパーで出会ったナナの事ばかりを考えておりジルの話などまったく頭に入っていなかった
呆然と聞いているクリスに気がついたジルは彼に何度も呼びかけた
呼びかけられたクリスはハッとなってようやく呼ばれている事に気がついた

「ぁ…すまない…」
「クリスったらちゃんと聞いてたの?………まさかナナの事を考えてたんじゃないでしょうね?」
「いや…そういうわけじゃ…」

考えていた事を見抜かれてクリスは誤魔化すように地図を手に取る
だがジルは再びクリスから地図を奪い取って口を開いた

「…数年前に私は言ったわ、ナナにも事情を話すべきだって…でもあなたは話さなかった黙って行った」
「……」
「ナナを巻き込みたくないんでしょ?だったらあなたも忘れなきゃ、彼女はもう歩き始めてるんだから」

そうだこれは自分が望んでした事だ
ナナはもう別の男と新しい道を歩き始めている、幸せな道を平和になれる道を
自分の隣ではできない事だ
自分が望んだ事なのに他の男といる彼女を見てショックを受けている
本当なら自分がナナと一緒にいたいのに

「……今日はもう休みましょう、明日からは調査を開始するから気持ちを切り替えてね」
「……あぁ、おやすみジル」

おやすみの挨拶を交わしてジルは部屋を出て行く
残されたクリスはそのままベッドに座って頭を抱えていたが、ふと自分の鞄を漁り始める
出したのは自分のパスケースでその最後に挟んであったメモを広げる
そう数年前にどうしてもナナの事が気になって探偵を雇って教えてもらった彼女の店の連絡先だ
時計を見つめるクリスはもう店など閉まっているだろうが携帯を手に取ると一つ一つ番号を押していく


先にコーディがシャワーを浴びている間にナナは食器を洗っていた
最後の1枚を洗い終えて水気を切り他の皿の上に重ねる
その時1階から店の電話が鳴っていることに気がついた、時計を確認したナナは一体誰だろうかと首を傾げながら1階へと降りて行く
受話器をとってナナは相手に声をかける

「はい?」
『………』
「…もしもし?」
『………ナナか』

名前を呼ばれてナナは眉間に皺を寄せる
どうして自分の名前を相手は知っているのか、腰に手を置いて再び相手に声をかけた

「……誰なの?」
『……俺だ、クリスだ』
「え………」

ガシャンッ!!
傍に置いてあった鉢植えをナナは思わず地面に落としてしまった


130328


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