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カチャカチャと食器の鳴る音が響き渡る。パンが焼けたのかチンという音と共にこんがりと焼けたパンが顔を覗かせる、大きな手が焼けたパンを2枚取りそれぞれの更に並べると寝室で寝ている愛する彼女の元へと足を進めた
寝室の扉が開かれてベッドの上で眠っていたナナは入ってきた人物に気がついて目を細めるとそちらに向かって両手を伸ばせば抱きしめられた

「おはようナナ」
「おはよう……クリス」

おはようのキスをしてナナは力強く彼を抱きしめればそのまま抱き上げられてリビングへと向かう
テーブルの上には彼が用意した朝食が用意されており椅子の上に優しく降ろされた
彼女の椅子を押してやると向かい側にクリスも座り二人で朝食を食べ始める

「オレンジジュースでいいか?」
「うん」

グラスにジュースを注いでナナに渡すとクリスはパンに噛り付く
甘酸っぱいオレンジジュースを飲みながら彼女は彼の食事の姿を見つめて目を細める
そしてグラスを置くとクリスに向けて口を開いた

「……あの時」
「ん?」
「あなたのこと…諦めないで待っていたから今こうして幸せに暮らしてるのよね…」
「……そうだな、でもナナこれは夢だ」

突然クリスは表情を変えて立ち上がると彼女を見下ろした
見たことのない冷たい表情にナナは怯えて彼を見上げる

「いつまで俺を待ってるつもりなんだ?」
「え…?」
「ほらだから言っただろ?そいつはそんな奴だって」

後ろから聞こえた声に振り向けばナナの兄がそこに立っていた
何故彼がここにいるのかわからなかった、頭の中が混乱している中ふたたびクリスが口を開く

「君の兄の言うとおりだ、俺たちもう終わったんだ……俺の事はもう待たなくていい」
「そんな……待ってよ、クリス!!」

その場から立ち去ろうとするクリスを追いかけようとしても何故か彼に追いつく事ができなかった
夢の中でもせっかく会えたというのに精一杯ナナは彼の名前を叫び続けた



「っ!?」

ベッドから弾かれたようにナナは身体を起こした
夢、だった
時計に目をやれば7時を過ぎたところだった
クリスの夢は何度か見たことがあるのだが今日みたいな夢を見たのは初めてだった
もちろんあれが彼の本音ではない事はわかっている、いやそう信じたいのだが相当なダメージを食らった
大きくため息をついてからナナは仕事場に出かける準備を始めた


「おはようナナ」

新しい土をいれていたコーディが声をかける
昨日のコーディの告白を思い出してぎこちなく返事を返した

「着替え終わったら水やりをお願いするよ」
「わかったわ」

しかしコーディはいつもと変わらない態度だった
彼も本当は自分の気持ちを伝えてからいつ返事をくれるのかとドキドキしていた、数年後でもいいなんて言ってしまったが本当はすぐにでも返事が欲しいところだった
着替えに行くナナの背中をコーディは切なそうに見つめた

着替えながらナナもコーディの事を考えていた
彼は何年でも待つと言っていたがすぐにでも返事が欲しいだろうと考える
待たせる…という状況がどれだけ辛いか今のナナにならわかる
今日見た夢でクリスが諦めろと言ったのも自分の背中を押してくれているのかもしれない
最後にエプロンをつけてナナはコーディの元へと向かう


「ねぇ…コーディ。ちょっとだけいいかな?」
「…あぁ」

戻ってきたナナの真剣な目を見て彼も昨日の告白の事だと察した

「……今日ねクリスの夢を見たの。そしたら夢の中の彼がね「もう俺の事は諦めろ」って言ってきたの。これはね…もしかしたら新しい恋に進めって事だと思う」
「……うん」
「……私も今でも半分はクリスの事を諦めてるんだけど、まだ半分は諦めていないの。コーディと付き合ったとしてもまだクリスを好きな気持ちがあるから……それが申し訳なくて「それでもいいって言ったら?」

コーディはナナの両肩に優しく手を置いて彼女を見つめる
じゃあ仕方ない、と諦めたように返事が返ってくると思っていたナナは少々驚いていた
彼は真剣な眼差しで彼女を見つめている

「好きになった人をそう簡単に諦める事ができないのは当たり前だ、けど俺はそれでも君と一緒にいたいんだ……俺がいずれ彼を忘れられるように君を夢中にさせてみせる」
「コーディ…!!」

たまらなくなってナナはコーディに抱きついた
彼も力強く彼女を抱きしめるとそのまま唇を重ねた
彼といればきっとクリスの事も忘れていく、もう待つのは疲れたのだから


130326


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