26


いつもの時間帯に店を開けて数人のお客さんからの注文を受け終えて花束を作り終えたナナに声がかけられた
そちらを見て彼女は目を細めた

「あ、確か君はこの間の……」
「そうだよ。お姉さんこの間は花束ありがとう、母さんすごく喜んでた」
「ホント?よかったー…私も嬉しいわ」

そうそこに立っていたのは母親の誕生日に花束をプレゼントしたいと言って来た少年だった
どうやらわざわざお礼を言いに尋ねてきたらしい
少年の律儀な心にナナは頭を撫でてやれば彼は頬を赤く染めた

「お、お姉さん…!」
「あ…ごめんなさい。もう頭とか撫でられる年じゃないかな?」
「い、いや…そうじゃなくて……そういえばお姉さんって最近この町に来たの?」

自分の照れた態度を隠すかのように少年は話題を摩り替えた
首を傾げながらもナナは少年に近くにあったベンチに座るように言うと隣に座り口を開いた

「3ヶ月ぐらい前に来たの」
「どこから来たの?」
「……ラクーンシティよ、知ってる?」
「……街中の人がゾンビになったって所でしょ?知ってるテレビでもやってたし」
「そう。私はね兄に連れられて何とかこの街に逃げてきたの、でこのお店をやってる人に仕事を紹介してもらってここにいるの」

3ヶ月前のラクーンシティが未だにハッキリとナナの中に残っている
ゾンビと呼ばれる化け物に人々が襲われていたことを…もし兄が助けに来なければ自分は死んでいただろう
顔を濁らせるナナの表情に気づいた少年は更に口を開いた

「…お姉さん、この店で誰か待ってるの?」
「え……?」
「たまにさ…遠くを見つめるような目をするよね……俺の母さんも父さんが帰って来ない時とか心配になってそんな目をするんだ」
「……お父さん、危険な仕事してるの?」
「俺の家は軍人の家系なんだ……俺も将来その道に進みたいんだ」

こんな小さな少年が過酷な道に進むというのか
だけど胸を張って目を輝かせる少年に何も言えなかった
自分が母親だったら絶対にやめてほしいが…

「頑張ってね、あなたならきっとなれる」
「ありがとう」
「……さっきの話の続きだけど、そう待ってるの私…連絡が取れなくなったあの日からずっと……」
「…家族?」

少年に尋ねられてナナは首を横に振る

「恋人…」
「……そっか」
「……ねぇもしあなたが私の恋人と会うことがあったら伝えてくれる?ずっと待ってるって……」
「わかった…じゃあもう行くねお姉さん」

立ち上がった少年は頭を下げて走り出した、のだが途中で何かを思い出したのかこちらを振り向いた
どうしたのか?とナナは少年を見る

「恋人の名前は?」
「…クリス……クリス・レッドフィールドよ!」

少年は親指を立てるとそのまま道路を渡って反対側の歩道に行く
名前、となってナナは少年の名前を聞いていなかったことに気がついて今度は彼女から声をかけた

「ねぇ!あなたの名前は?」
「…ーズ・……ンス!」
「え……?」

その時車が通ったため少年の名前を聞き取る事ができなかった
彼は伝わったと思ったのだろうそのまま走り去ってしまった
聞けなかったことに残念に思ったがきっとまた現れるだろうとナナは店の中へと入っていった
あの少年を利用するわけではないが軍人に関わっていれば何かとクリスの情報を得られるかもしれない、と勝手に期待した

しかしこの日を境に少年が店に来る事はなかった


130310


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