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pipipi……
「……ダメ、か」
電話を切ってナナはため息をついた
クリスに抱かれてから1週間の時間が流れた、あれから数日後何度も電話をかけているのだが彼が出る様子はない
仕事で忙しくて連絡がとれないのだろうか?
そうだとしても一言ぐらい何かくれてもいいはずだし、自分の着信履歴も相手側に残っているはずなのに何もない
あの日クリスの様子がどうもおかしい事にナナはずっと心の中で引っかかっていた
どこか苦しそうで自分の中に何かを溜め込んでいる様子だ
何か悩みでもあるのだろうか?相談してくれてもかまわないのに
「あ……枯れてる」
クリスの様子が気になってからこうして花の手入れも行き届いていない事が多い
時計を見ればもうすぐ昼過ぎだ
彼が勤めている警察署まで顔を覗きに行こうと決意した
この時間帯なら昼休憩かもしれないし、会えるかもしれない
* * *
警察署にやって来たナナは受付へと向かった
受付にいた女性が彼女の顔を見る
「あの……クリス・レッドフィールドに会いたいんですが」
「あなたは?」
「え、っと……恋人、です」
遠慮がちに答えるナナを見て女性は口を開いた
「彼なら今出張に出ていますよ」
「え?出張…?いつからですか?」
「1週間ぐらい前です」
1週間前と言うと自分と最後に会った次の日にでも出張に出たという事なのだろうか?
戸惑っているナナに構わず受付の女性は次に待っている人間を呼ぶ
ナナは慌てて避けて帰ろうとするとジルの姿を見つけて思い切って声をかけた
「ジル!」
「ナナ…!?」
自分の所へ駆け寄ってくるナナの姿にジルは少々驚いたように声をかけた
「どうしたの?」
「ジル…クリスは出張に出たの?」
「え…?どうしてそれを?」
「今受付で聞いたの、私クリスに何も聞かされてなかったからちょっと驚いたんだけど」
彼女は何も知らない
心配そうにしている姿にジルは胸を痛めた
彼女の目はクリスの事を心配して聞きたくて仕方がないという感じだ
ちょっといい、とジルはナナを連れて警察署の外へと出た
「ねぇジル…」
「ん?」
「……クリスって何か悩んでるのかな?」
ナナは気づいているのだとジルは感じた
クリスはわかりやすい男だから女なら誰でも様子が変な事に気がつくのかもしれないが
ジルは笑顔を作って彼女の方を見た
「今回の出張ね、ちょっと期間が長いのよ。だからナナと離れるのが嫌だって言ってたわ!それでじゃないかしら」
「……そうなの?」
「えぇ、でもだからってナナに何も言わないで行くことないのにね」
最後はジルの本音だった
こんなに心配して想ってくれている人がいるのに
クリスがいつも話してくれている妹だって心配しているに違いない
世界もだけれど、まずは身近にいる大切な人を守ればいいのに
どこか切なそうに話すジルに問い詰めようかと思ったがナナはやめて苦笑した
「……そっか、仕事が忙しいから電話も出られないんだね」
「……えぇ。でも必ず帰ってくるから…もう少し待っていてあげてくれないかしら?」
「……うん、ずっと待ってるわ」
クリスもジルも何かを隠している
気づいていたがきっと聞いても教えてくれないだろう
自分には彼らを信じて待つしかないのだ
* * *
「ん……?」
眠い目を擦ってナナは身体を起こした
何やら外が騒がしい、こんな夜中だというのに何か事件でも起きたのだろうか?
カーテンを開けて目の前の光景に目を見開いた
人々が悲鳴を上げて逃げている、呻き声を上げた化け物に襲われている
「何…これ…?」
「ナナ!!」
部屋の扉を開けて入ってきたのはナナの兄だった
彼は自分の妹の姿にホッ、とすると彼女の腕を掴んで立ち上がらせ部屋から出る
外に出て車に乗せられたナナは兄に尋ねる
「兄さんどうなってるの!?」
「わからない…とにかくこの街から脱出するぞ!」
必死な形相で車を運転する兄を不安そうに見つめ、ナナは遠ざかっていくラクーンシティに目をやり身体を震わせた
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