いつかの声が切り裂


「ほら周邵…こっちよ」

なまえが両手を広げて優しく呼べば、母親の姿を見つけて嬉しそうに笑って駆け寄ってくる我が子、最近歩き出した息子は慣れない足取りでなまえの元へとやってくるとその胸の中に入ってくる。周りで見ていた女官達もその微笑ましい光景に笑みを浮かべずに入られなかった

「よくできました周邵」
「偉いですわ!周邵様!」
「もう歩けるようになったのか」

突然聞こえた声に全員がそちらを向く
見れば孫権がそこに立っていた、どうやら先ほどの様子を見ていたらしい
孫権の姿に驚いて女官達は急いでその場から離れて行く

「孫権様…どうかなさったのですか?」
「いや、近くまで来たので寄ってみただけだ。周邵、しばらく見ない間に大きくなったな」

孫権はなまえにしがみついている周邵に優しく微笑んだのだが、周邵は照れているのか母親の足の後ろに隠れた

「こら、周邵!」
「ははっ!良い…赤ん坊の時に抱いたことを忘れたようだな」
「すみません孫権様…よければ上がっていかれますか?」
「私のことは気にしないでくれ、さっきも言った様に勝手に来ただけだ。ところで周泰は留守か?」
「はい。朝早くに鍛錬に行かれたようで……」

話していたときだった。周邵が何かに気づいてそちらに向かって声を上げる
何事かとそちらを見れば今話していた人物――周泰が帰ってきたのだ
周泰も孫権が自分の屋敷に来ていることに驚いて瞳を開く

「……孫権様……」
「周泰、周邵はしばらく見ない間に大きくなったな」

周泰は自分の足にしがみついている周邵に目をやる
自分が帰ってきたことが嬉しいらしく微笑んで自分を見てくる息子に優しく笑みを返すとそのまま抱き上げた

「……孫権様、何故ここへ……?」
「たまたま近くに来たので寄っただけだ。そろそろ私は帰るよ」

孫権はそう言うと周邵に「またな」と頭を撫でて帰って行った。周泰は孫権を見送ると近くにいた女官に周邵を預け、なまえの手を引いてそのまま自室へと連れて行く
無言で連れて行かれるなまえはどうしてこんなことになっているのかわからずにいた
先に彼女を部屋に入れて周泰は扉をピシャリ、と音を立てて閉めた

「周泰様…どうされたのですか?」

怒っているのだろうか?なまえは恐る恐る声をかける

「……何故、孫権様を屋敷に入れた……」
「そ、それは…私も知らない間に孫権様が庭にいて……それに来たとしても君主なのですから屋敷にはお招きしないと……」
「……奴は男だ……」

周泰の言葉になまえは驚いて目を見開いた
周泰が命をかけてまで守った君主を奴呼ばわりした事に、彼に絶対的忠誠心を持っていると言われているのに
なまえの後頭部を掴んで周泰は彼女の唇を塞いだ

孫権は呉の主だ、彼には妻がいる。だがそれは一人ではない何人もの妻がいる
それはこの時代では当たり前の事だ
今彼が最も愛しているのは練師だ、だが孫権が他の女性を気に入った場合
それがもしなまえだった場合――……彼が「欲しい」と言えば周泰はなまえを彼に差し出さなければならない。そして息子も言われれば差し出さなければならない
周泰は今の幸せを手放したくなかった、なまえは今までにないぐらい一番愛しているし息子だって可愛くて仕方がないのだ


周泰は寝台の上になまえを押し倒した
抵抗するなまえだがすでに遅かった、腰の紐を解かれてしまった

「周泰様…っ!」
「……このまま抱かせろ、なまえ……」



孫権様

貴方の命を狙う輩から、俺は貴方を守ります
斬り捨てます

だがもし貴方がなまえを奪おうとするのなら

俺は貴方を斬ります



「……お前は俺の物だ……なまえ……」




(お前のためなら地位も名誉も失っても構わない)



****
たまには孫権に牙をむいているような周泰もいいんじゃないかな?周泰は決して歪んでませんよ!

120115


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