幸福論


「なぁ!いいだろ!?」
「やだっ!絶対やだっ!!」

二人の大きな声にその場にいた誰もがそちらを見た
声の主は孫堅の長男でもある孫策、と彼の妻のなまえだった
深刻な夫婦喧嘩をしているのだろうかと誰もが息を呑んだ
だが次の孫策の言葉でその緊張感はあっさりと消える

「なんでだよ!戦に行く前にキスしてくれるだけでいいんだって!」
「みんな見てる前でするなんて嫌よ!」
「夫婦なんだからべつにいいだろ!ほら、こんな感じでよ…」
「!!ちょ、ちょっと孫策…っ!!」

なまえの両肩を掴んで唇を押し付けようとしてくる孫策に彼女は必死で顔を逸らす
逸らした視線の先には何人もの人がいてじっとこちらを見ている
それに気がついたなまえはぐっ、と拳を握り締めると孫策の腹に向けて思いきり拳をぶつけた
鳩尾に入ったため彼はあっさりと彼女から手を離してそのまましゃがみこんだ

「ぐっ…やるな…」
「バカ孫策っ!!!」

思いきり舌を出すと彼女はその場を去っていく
彼女の姿が見えなくなってから孫策は立ち上がって罰が悪そうに頭をかいた


* * *

違うところへと逃げてきたなまえは人の気配を感じてそちらを振り向いた
そこに立っていたのは周喩だった
彼女はほっ、としたように息をついた

「周喩様か…」
「先程の騒ぎは君たちか、また孫策と喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩っていうか……聞いてください。孫策ったらまたバカなこと言い出して」

それは孫策が戦に出陣する時だった
弟の孫権が馬の準備をしていたときに彼の妻でもある練師がやってきて出陣する前に無事に帰ってくるようにとの願いを込めてか彼の頬にキスをしていたのだ
それは孫権ではなく妹の尚香も夫に向けてキスをしていたらしいのだ
それを見た孫策は自分もして欲しいとなまえに頼んできたのだ

「バカだと思いません?」
「うむ……しかし我々は常に生きて帰るとは限らない。明日があるのかさえもわからない中で生きているのだ……孫策とそうやって喧嘩していられるのも最後かもしれないぞ」
「……」
「君にとってはバカな事かもしれないが…孫策にとっては重要だ。彼の願い聞いてやってくれないか」

周喩の言葉はなまえの胸に響いた
そうだ、孫策が戦場で無事に帰って来ない日だってあるかもしれない
今日この日が最後になって、あの時聞いてあげればよかったと後悔するかもしれない


* * *

数日後
戦に出陣する事になったため孫策はその準備をしていた

「孫策」
「!…なんだなまえかよ」

どうしたんだ、とこちらにやって来る孫策
なまえはもじもじさせていたのだが彼の服の襟首を掴んでこちらに引き寄せると頬にキスをした
呆気にとられていた孫策がそのまま彼女を見れば顔を赤くさせていた

「いってらっしゃい」
「…おう!いってくるぜ」

がしがしとなまえの頭を撫でると孫策はいつもの満面の笑みを浮かべて戦場へと旅立っていった





久々に孫策、やっぱ好きですわ彼
自慰
130314


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