優し過ぎるさよならを


「ちょっとみんな!!そんなんで前線に出られると思ってるわけ!?B.O.Wは常に変化していて私たちの想像を遥かに上回る事があるんだから!!射撃ぐらいは完璧にしておいてよ!!」

ナナの怒声に隊員たちはしん、と静まり返った
すみませんと謝る隊員たちにナナはため息をつくと明日までに完璧にしておくように伝えてから射撃場を出て行った

シャワーを浴び終えたナナは自分の仮眠室のベッドの上へと転がり込んだ
しばらく目を閉じていたのだが気配を感じて目を開けてみれば自分を見下ろす男の姿が見えた
男の姿にまた盛大にため息をつくと髪の毛をかきながらベッドから起き上がる

「ノックぐらいしてよピアーズ」
「ハハッ…すまない。今日も盛大に怒ってたな」

射撃場での出来事を見ていたピアーズは苦笑しながら答えた
思い出すとまたため息が出てしまう
先ほどナナが怒鳴っていた隊員達は新しくクリスのチームに入ってきたばかりだった
当然素人たちではなく元陸軍隊員だとか海軍だとかの集まりなのだが射撃が下手くそだったのだ、現場に出てその調子だと命を落としかねない
先輩であるナナが彼らの教育係をクリスに指名されてやっているのだ

「ねぇ…あいつらにアンタの腕を見せてやってくんない?女の私がやっても舐められてるような気がするし」
「それじゃあ余計に新人たちに示しがつかないじゃないか、駄目だな」
「……やってよ」
「……絶対に駄目だ」

ケチ、と頬を膨らませるナナにピアーズは目を細めた
あーぁとナナは大きく声を上げて再びベッドの上に大の字に倒れた

「…隊長は何で私に教育係なんて任せたんだろ、ピアーズに任せればいいのに…そしたらアイツら絶対に射撃の腕上手くなるよ……なんでなんだろ」
「……なんでってお前しかいないからだろ」
「………そうだね」
「…そういえば隊長は?」
「あぁ……"あそこ"にいるよ、行くでしょ?」

身体を起こしたナナは側に置いていた車のキーを取り出して部屋を出て行く
それにピアーズも続けて出て行った
車で数十分走らせて辿り着いた場所は海だった
夕日に照らされた海は綺麗だが、切なくさせる
あそこ、とナナが指を指した方向を見れば海の中にクリスの姿が見えた
ピアーズはその姿を見てハハッと小さく笑った

「…もう半年ぐらいここに通ってるよ」
「…知ってる」
「……あぁして海に潜ればアンタに"会える"ような気がするんだって、ここにいるのにね」
「……幽霊だけどな」

ピアーズは自分の両手を見つめて側にあった手すりに手を置いてみようとするのだが透けてしまった
その姿を見たナナがぐっ、と唇を噛んだ

「隊長に伝えておいてくれないか?またアンタの部下になりたいって……」
「うん…」
「それから……生まれ変わってもまたお前の恋人でいたい」
「……っ」
「あの人をずっと支えてやってくれ、もうお前にしか頼めないんだ……」


海の中に潜っていたクリスが水中から出てきて周りを見渡した
その時こちらを見ているナナの姿に気がついてそちらに駆け寄っていく

「来てたのか」
「もー隊長ったらまた一人で海に来て…さっさと帰りますよ」
「…あぁ」

クリスを助手席に乗せてナナは車のキーを挿すと口を開いた

「隊長、アイツは海にはいませんよ。アイツはね私たち家族の側にずっといるんです…だからもう海には行かなくていい」

ナナの言葉にクリスは何か答えようとしたのだが何も言わなかった
そしてふっ、と口の端を上げて笑うと口を開いた

「ピアーズがそう言ってたのか?」
「はい!だって今日も私の側にいたんですから」
「……そうか、だったらどうしてピアーズは俺の前に姿を現さないんだろうな」
「さぁー?何ででしょうねー」

無邪気に笑いながらナナは車のエンジンをかけて車を走らせた

ピアーズが亡くなってから数週間後
彼は私の前にひょっこりと姿を現した、悲しんでいる私の姿を見て成仏できなかったのか…とにかくそこから彼は私の側にいてくれるようになった
なんでもよかった、とにかく彼が側にいてくれるのなら
この事を隊長に話せば馬鹿にはしなかったけれど、信じてももらえなかった
ただ一言「そうか」とだけ返された

今まで何を言っても信じてもらえなかったのだが、隊長はあの時の言葉は信じたのかあの日以来、海には行かなくなった
そしてピアーズも姿を見せなくなった、次の年もその次の年も

だけど私は彼が今でも私たち家族の側にいることを信じている





ヒロインのお願いを聞けないのは自分がもう死んでいるから…幽霊ピアーズの話でした。残ったのはクリスとヒロイン、ピアーズの死を乗り越えたつもりでもやはり心のどこかで引きずっていてそんな二人が心配なピアーズ、二人が自分の死を本当に乗り越えたときに成仏できたらいいなと…けれど彼は常に家族の側で見守っているのです
約30の嘘
130516


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