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「高いところから落ちたみたいだ…ゴミ箱の上に落ちてゴミがクッションとなって助かったようだ」
「そうか」

男性二人の会話が聞こえる
ナナはうっすらと瞳を開けた
真っ白い天井が見えた。傍には機械が置かれておりピッ、ピッと一定のリズムで音が聞こえる

「目を覚ましたようだ。後は僕が面倒見るよ」
「あぁ頼んだ」

一人の男が部屋から出ていく
メガネをかけた男がナナを見下ろしていた

「目が覚めたみたいだね…僕の名前はヴィンセント・グレイだ。君の担当医さ」
「……担当医?」
「そうだ…起きたばかりですまないが君の名前はナナ…だね?」
「……えぇ」

ぼんやりとした感じでナナは答える
質問にちゃんと答えている彼女を見てヴィンセントはホッ、としていた

「君はラクーンシティで発見されたんだが……覚えてるかい?」
「ラクーンシティ…?………わからないわ」
「!」
「……そうだわ、私どうして病院にいるの?覚えてないわ…何も……思い出せない」

ナナは頭を抱え込んだ
ヴィンセントはそれを見て眉間に皺を寄せる
彼女は記憶喪失だとわかったからだ

「落ち着くんだ……記憶は時間が経てば元に戻ることだってある……しばらく休んでいるといい」
「………」

ヴィンセントはそう声をかけると部屋を出ていく
残されたナナは呆然となっていたがベッドから起き上がった


「彼女は記憶喪失だ…何も覚えていないらしい」

ヴィンセントはナナの書類を見ながら言った

「何も…仕方ないか、酷い状況だったからなあの街は」
「……問題はこれからだ。彼女両親もいないようだ…どうするべきか」

その時一人の仲間が指をさした
ヴィンセントもそちらを見て目を見開いた
何も覚えていないはずの彼女が事故で怪我をして運ばれてきた患者の応急処置を自ら進んでやっているのだ

「…大丈夫よ、すぐに先生が来てくれるから頑張って」

そう言って優しく微笑むナナにヴィンセントは胸を打たれた
どんなに苦しくても一人一人丁寧に優しく接する姿に目が惹かれた


「僕の予想なんだが…君は医学を勉強していたんじゃないだろうか?」
「医学…?」
「あぁ…先程の手当の仕方だって素人じゃできない技だ」

後ほどヴィンセントに個室に連れてこられたナナ
記憶を失う前に医学を勉強していたことなど彼女は知るはずもない
思い出そうと考え込んでいるナナにヴィンセントは提案を持ち出す

「…よかったらここで勉強しないか?君の面倒も僕が見てあげるよ」
「え…?」
「ハッキリと言う。僕は君に惚れたんだ…これからは僕が君を守ってあげるよ」
「…よろしくお願いします……ヴィンセント」

顔を赤くしながらナナは頭を下げた


そしてヴィンセントはある話を聞く
ラクーンシティの生存者に話を聞こうと新聞記者が嗅ぎ回っていると
ナナの名前を世間に出したくはなかったし、彼女に記憶を思い出させるようなことはしたくなかった
そして彼は生存者リストにあえて彼女の名前を入れなかったのだ

「これ……君の荷物なんだがもう処分してもいいかな?」
「……あ、待って!!」

ナナは一つの指輪を手に取る
そしてほっ、と安心したような顔になった

「これだけは…捨てないで…」
「……誰かにもらったのか?」
「……わからないけど、捨てたくないの。とても…大切な物だから…」

彼女はそう言うとぎゅう、と指輪を握り締めた
その行動にヴィンセントはあまり気分がいいものではなかったのだが、彼女がとても大切にしているので何もできなかった
それから数年間ヴィンセントとナナはとても仲良く過ごしていた


110801

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