9


「ナナっ!!」

ダンテがようやくたどり着いたゴミ捨て場に着き、名前を呼ぶ
日が暮れて辺りは真っ暗で何も見えない状況だった
とりあえずダンテはゴミ捨て場の小屋の扉を開けて中を覗いて見る

「ナナ……?」

暗闇に向かって小さく名前を呼んでみる
返事が返ってくるかもしれないと沈黙していたが、期待を裏切られダンテは小さく舌打ちをした
そして小屋の扉を閉めて、辺りをもう一度見回す

「どこに行ったんだよ…っ!」

ダンテが自分の頬から流れてくる水を手で拭う
そしてふと裏にある大きな森に目をやった
普段は綺麗な緑色で輝いていて、目の保養にもなる森
しかしここは立ち入り禁止の場所だった、とダンテは思い出した
だがもしかしたら彼女はこの中に居るのかもしれない
普段とは違った森の中、今は暗い雰囲気を漂わせる森の中にダンテは足を進めた


「…今、何時かな……?」

森の中を彷徨いながらナナはボソリと呟いた
ほんの数時間隠れるだけだった
しかし立ち入り禁止となっている場所と聞いては誰だって興味が湧く
奥に何があるのか、少しだけ探検して戻るつもりだった
だが予想外にこの森は広く迷ってしまった。おまけに雨まで降っており彼女の体を簡単に濡らした

「……最悪」

さんざん森の中を歩き回って疲れたのかその場にしゃがみこんでしまった
こんな事なら大人しくダンテといた方がよかったのかもしれない
ただ一緒に居てキスをすればいいだけのことだ
あのキスだって最初は嫌だった。だけど今となっては……
そこまで考えてナナがふと我に返った
最初は嫌だった……?じゃあ今は…?

自分の唇に指を持っていく
ダンテはどんな風に自分の唇に触れていたのだろうか?
瞳は怖いくらいに見つめるのに、触れる時はすごく優しいものだった
愛するものにする優しい触れ方――……

「……ダン、テ……っ」

求めているのだろうか?
ものすごく誰かに抱きしめて欲しい、キスをして欲しい……
いや誰かではない。ダンテだ、ダンテを求めている
雨で体温が下がったせいでそんな事を考えるのだろうか?と自嘲気味に笑った

「ナナ……?」

暗闇の中から声が聞こえた
ふとそちらを向くと、息を切らして雨で全身を濡らしているダンテがそこに立っていた
ダンテはナナだとわかると彼女の側まで行き、強く抱きしめた

「ナナっ!!よかったー無事だったか!」
「ダンテ……?どうしてここに……?」
「ナナがいなくなったって聞いて、俺じっとしてられなかったんだ。けど……」

ダンテが途中で言うのをやめてナナを見る
もしかして怒られるかもしれない、と怖くなった
ダンテがナナの頬に優しく触れる

「無事でよかった」

本当に安心したのかダンテは優しく微笑んでナナを見る
その微笑みは幼い頃から見てきた優しい弟の表情
恐る恐る尋ねた

「……怒らない、の?」
「……ナナが無事だったからいい」

じわり、と瞳から熱い涙がこぼれた
あぁ、この人は本気で私を愛してくれている…
弟だから、家族だからではなく一人の女として私を本気で愛してくれている……
今までの怖さは嘘だと信じたい。私を心配してくれている今のが本当の貴方だと信じたい


「よかったわ…!無事で」

キリエがダンテと戻ってきたナナを見て涙を流す
風邪を引いてはいけないということで先に部屋に戻った
残されたキリエとダンテ、ダンテももちろん体が濡れている戻ろうかと足を動かした時だった

「あの…ダンテくん、少しいいかしら?」
「? なんだ?」

キリエに呼び止められて足を止めるダンテ
少し言いにくそうな感じだったがキリエは思い切って尋ねてみた

「……最近ナナの様子が変なんだけど、何か聞いてない…?」
「様子が変……?」
「そうなの…まるで何かに怯えているような感じで……」

その言葉を聞いてダンテはすぐに自分が原因だと悟った
ナナが怯えているものといえば自分しかないだろう、そうさせたのは自分なのだから
傷つけてでも怯えさせてでも自分の気持ちを貫き通す。そう思っていたはずなのに……
今日ナナが森に逃げ込んだのも自分のせいだ
キリエに心配をかけさせているのも自分のせいだ
そのぐらいの覚悟でナナを手に入れようと決めたのに

「……それすぐに治るよ」
「え?」
「ナナに言っておいてくれ―――もう会いに来なくていいから」

訳がわからないといった表情をするキリエを置いてダンテはその場を立ち去る
やはり傷つけてまで彼女を手に入れたくなかった


「遅かったじゃねぇか、どこに行ってたんだよ!」

ようやく戻ってきたダンテにネロは少し怒って聞いた
しかしダンテの雨に濡れた姿を見て思わず黙り込んでしまう

「……外行ってたのか?あーまぁいいや早く風呂入って来いよ、風邪引くぞ……っておい!!」

ネロの言葉を無視してそのままダンテは服を脱ぐとベッドに潜り込んだ
そしてヘッドホンをつけて音を最大まで上げる
ネロは近くまで行って顔を覗きこむ

「ダンテ……?どうしたんだよ?」
「うるせぇよ……」

ダンテは涙を流しながら音楽を聴いていた
ネロはそれ以上何も聞かず、しばらくそっとしておくことにした


「……門限を破り、挙句に立ち入り禁止地区にまで入った。しばらく君は3日間の謹慎だよ、寮の中しかいてはいけない。学校にも行かないように」
「はい……すみませんでした」

生徒指導の教師にもう下がっていい、と言われてナナは頭を下げて部屋を出て行く
謹慎処分は当然だろう、と考えていた。3日間だけで済んでよかったかもしれない
だが気になるのはキリエから聞いたダンテの言葉だった

「会いに来なくていい」

どういう意味なのだろうか?
そのままの通り私を解放してくれるって事なのだろうか?
だとしたらどうして今になってそんな事を言うのだろうか?
他に女ができたのだろうか……?それとも私に呆れたのだろうか……?

「……何悩んでるんだろう私、これでいいんじゃない…私が望んでいたことじゃない……なのにっ…」

どうして胸が痛いのだろう?

「ナナ…さんっ!」

名前を呼ばれてそちらを見るとそこにはネロが立っていた
ナナは慌てて笑顔を作って彼の方を見た

「こんにちはネロくん」
「あぁ…どうも……ってもしかして謹慎くらった?」

ネロがチラリと生徒指導室を見て尋ねる
その言葉に苦笑いして「3日間だけど」と答えた

「それよりどうかしたの?」
「あ、あぁ……ダンテのヤツが熱出て倒れたんだ」

一瞬ドクリと心臓が鳴ったが、すぐにそう、と答える

「只の風邪でしょ?ネロくん迷惑かけると思うけどダンテの事よろしくね」
「見に来てくれないのかよ……」
「……男子寮には女子は入れないのよ。家族でも入れるのはよほどの怪我か病気でないと入れないのよ、風邪ぐらいで入れないわ……それにダンテに言われた、もう会いに来なくていいって……」
「でも……ダンテはアンタを呼んでるっ!」

ネロのその言葉に思わず目を見開く
ネロはナナの両肩を思いっきり掴んだ

「昨日何があったのか知らないけど……ダンテは昨日泣いてた。今も熱でうなされながらもアンタの名前を呼んでる…!」

泣いていた?会いに来なくていいといったのは自分なのに?

「……私は行けない。ネロくんお願いね」
「……そんな会いたそうな顔して頼むなよ」

ネロの言葉にナナは体がビクリとなった
そうだネロの言うとおりだ
ダンテにたまらなく会いたい、自分の気持ちに気づいてしまったから

「会いたいよ……ものすごく会いたい…っ」
「……入るの協力するよ、だからダンテに会ってやってくれ」


ネロの手伝いもあってかナナはなんとか男子寮に入ることができた
入り口で見張っておく、とネロを廊下に残し部屋に入る
ベッドの近くまで行くとダンテが苦しそうな顔をして寝ていた
そっ、と頬に触れてみる。熱かった、もちろんそれは熱のせいで

「………ん」
「え…?」

ダンテから小さかったが声が聞こえた
起きたのか、とダンテを見てみるがそうではないらしい。どうやら寝言のようだった

「……ん、ごめん、ごめんな…ナナ…」
「ダンテ……?」

どうして謝っているのだろう?
その時ダンテがうっすらと瞳を開けた。視界にナナの姿を映して呆然となっていたが
やがてハッ、となってナナをもう一度見る

「ナナ…!?なんでここにいるんだ…?」

ダンテは一瞬夢なのだろうか?と辺りを見回す
しかしここは自分とネロが生活している男子寮だ
何故ここに女であるナナがいるのだろうか…?

「帰れよ……何してんだよアンタ。見つかったら…下手すりゃ退学……」

ナナはダンテに抱きついた
抱きつかれたダンテは何も言えなくなり、かといって抱きしめる事もせずにそのまま体を固まらせた

「…ダンテに会いたかったから……」

寂しそうに言うナナにダンテは驚いて目を見開く
抱きしめようとその肩に手をかけようとするが、目を瞑ってその肩を押し返した
途端泣きそうな目でダンテを見るナナ

「……伝言聞かなかったのか?会いに来なくていいって伝えたはずだぜ」
「聞いたよ……でも私が会いたかったから来たの」

ナナはそう言ってダンテの唇に自分からキスをした
突然のことにダンテは目を見開いたままだった

「……こんな気持ち気づきたくなかった…相手は血の繋がった弟……だけど私も耐えられないの!ダンテが……好きなのっ!」
「……本当か?」

コクリと頷くナナを見てダンテは思いっきり彼女を抱きしめた
彼女の涙を舌で舐め取り、そのままキスをする
それに答えて角度を変えて何度もキスをする

「俺…さ、お前が俺のせいで悩んで傷ついてるって知って……だから離れようと思ったんだ。すげーつらかった……けどこれからは遠慮しなくていいんだよな?」
「うん……」
「俺と一緒に地獄に堕ちれるか?」
「…ダンテと一緒なら大丈夫……だからキスしてダンテ」

こうなったらとことん禁忌を犯そう


090428

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