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どんなに嫌がったって明日は来る
時間が止まらない限りは……
カーテンから漏れる光がキリエの目を覚まさせた
少し彼女は唸ってからゆっくりと体を起こした、途端に目に入ってきたのは同じルームメイトのナナの姿
彼女はすでに起きていて、掛け布団を被りながら窓から空を見ているようだった
「おはよう、もう起きてたのね」
キリエの声に反応したナナはゆっくりと振り返りキリエを見る
苦笑いしながら「うん」と彼女は一言答えてまた空を見る
その様子に不審に思ったキリエはナナのベッドに近づき優しく声をかけた
「どうしたの?何か見えるの?」
キリエも同じようにナナが見ている空を見上げる
しかしこれと言って変わったことは何もない、いつもと同じような綺麗な青空が広がっていた
「……キリエ」
「ん?」
「……明日が来なければいいのにって思ったことある?」
ナナの言葉にキリエが少し目を見開いた
突然そんな事を聞いてくるなんて一体彼女はどうしたというのだろうか?
キリエが戸惑っているとナナは苦笑いして立ち上がった
「ごめん……なんでもない、忘れて」
「ナナ……」
ナナはクローゼットから制服を取り出して着替え始める
キリエは不思議に思いながらも自分も制服に着替えようと準備を始めた
「よぉ!おはよう坊や、元気か?」
朝食の時間
ネロは挨拶してくるダンテに向かって思いっきり嫌な顔をした
ダンテはヘラヘラと笑いながら持ってきたお盆をネロの隣に置き、そのまま座った
「……おい、なんで隣に座るんだよ」
「ん〜?いいだろ別に、じゃあネロと一緒に食べたかったから……」
「気持ち悪いな!あっち行け!!」
怒ってくるネロを笑いながら見るダンテ
そしてそのままパンを食べ始めた。ネロもそれを見て食事を始める
そして昨日の事を思い出す
「……好きな女って、同い年か?」
「いや、俺より一つ上」
一つ上と言う事は2年生か、とネロは思った
そしてキリエと同じ年だと言う事も……
「名前は?何て言うんだ…?」
「……ナナ」
ナナ、かネロは心の中で名前を繰り返した
そしてダンテが先程のお茶らけた瞳ではなく、鋭い目でこちらを見ていることに気づいた
「……なんでそんなに聞いてくるんだ?」
「い、や… 一つ上だって言うからキリエなら何か知ってるんじゃないかと思って……」
「キリエ?」
「…アンタが探してる女と同い年なんだ」
ネロはダンテの鋭い瞳を見て言葉を詰まらせながらも答えた
それを聞いたダンテはパッ、と顔を笑顔にさせた
「なんだ〜そういう事か、それならそうと早く言えよなー。ナナに興味を持ったのかと思ったぜ」
「そんな訳ねぇだろ……」
「また聞いておいてくれよ、そのキリエってヤツに」
ダンテはそう言うとまたパンを食べ始める
ネロは今のダンテを見ながら先程の鋭い瞳をしたダンテを思い出す
何だったんだ…さっきの瞳は……
ナナに近づく男は誰だろうと許さないという感じの瞳だった……
今のアンタとさっきのアンタ…一体どっちが本物なんだ?
それにコイツをここまでさせるナナって女は一体………
ネロが色々と考えていると、二人のテーブルに同級生が数人やって来た
そしてダンテの胸倉を掴み始めた
「おい、トップ取ったからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」
嫉妬か、とネロは呆れた瞳をしながら相手を見た
確か彼は今年2位だったような気がする……
ダンテは胸倉を掴んできた相手を見てふっ、と笑い手を外させる
「俺がここの学校に来た目的は二つ……一つはトップを取って俺の姿をアイツに見せ付ける事。これはもう叶った、トップでいる必要はもうねぇ。後はアンタが勝手にトップを取ればいい話だ、そしてもう一つは……アイツを手に入れる事」
絡んできた相手たちの体がゾクリとなった
ダンテが再びあの瞳をして相手を睨みつけていたからだ
「アイツを手に入れる事……邪魔するなよ?」
ダンテはそう言うとトレーを持ってその場を立ち去る
ネロも慌ててその後を追った
「おい!どこに行くんだよ、そっちは俺たちの教室じゃねぇぞ!」
ネロが自分たちの教室とは違う方向に行くダンテに声をかける
「それでいいんだよ、これからナナを探す」
「クラスわかってるのかよ!」
「んー?知らねぇ、一クラスずつ当たればその内見つかるだろ」
ダンテが笑いながらネロに答える
ネロはその言葉を聞いてまたも呆れてため息が出た
それに、とダンテはニヤリとしならがらネロを見る。ネロはなんだよ、とダンテを見る
「そのキリエ、って女にも会えるかも知れないぜ」
「! な、なんでキリエが出てくるんだよ……」
「お前自分で気づいてないのか?キリエの話するたびに好きだって顔に出てるぜ」
「!! う、うるせぇ!お前には関係ないだろ!」
「俺たちは恋してる仲間だな〜♪」
からかってくるダンテに顔を赤くしながらもネロはムキになって反論する
「キリエとは幼なじみで小さい頃から一緒にいるだけだ!大体向こうだって俺のこと弟ぐらいにしか思ってねぇよ……」
「……でも姉弟じゃなく、幼なじみなんだろ?」
え?とネロがダンテを見る
ダンテは先程のからかった顔をしておらずどこか切なそうな顔をしていた
「いいな……俺も幼なじみがよかった」
「ダンテ……?」
「お、ここはAクラスか。入って見ようぜ」
ダンテが見つけた教室を指差して、扉を開ける
ネロは先程のダンテの切ない顔に疑問を抱きながらも続いて後に入った
ナナはどこかソワソワしながら本を開いたり、窓の外を見ていたりして過ごしていた
ダンテは自分を探しに来るかもしれない、そうなったらどこに逃げようか……
色々と考えているとキリエが声をかけてきた
「大丈夫?…具合が悪いのなら保健室に行く?」
「……今のところは大丈夫だよ、具合が悪くなったら行くよ。ありがとうキリエ」
ニコリと微笑んでキリエにお礼を言った
その時一人の女子生徒が教室に大慌てで走って来た
「ねぇねぇ聞いて!今年のトップが2年生の教室に来てるの!!」
ダンテだ……
「えー?なんで2年の教室に?」
「わかんない、でも誰か探してるみたいよ」
ナナはそれを聞いて椅子から立ち上がり教室から急いで出た
キリエがそれを見て声をかけるがナナには届かなかった
それと同時にダンテとネロが入ってきた、キリエはネロの姿を見て声をかける
「ここがDクラスか……」
「ネロ!」
「! キリエ!」
ネロが自分の名前を呼ばれてそちらを向くとキリエがいた
キリエは小走りでこちらに向かってきた
「ネロ…どうしたの?」
「あ、いや…コイツの付き添いっていうか……」
「……アンタがキリエ?ナナはどこにいるんだ?」
「貴方は……?」
キリエは自分に声をかけてきた人間に尋ねる
「あぁ、キリエこいつはダンテって言うんだ」
「……貴方がダンテ……?」
「ナナの事知らないか?」
ダンテ、と聞いてキリエはまじまじとダンテを見る
そしてダンテから出たナナの名前にキリエはハッと思い出した
「あ…ナナならついさっき教室を出て行ったの、すごく大慌てで……」
キリエがナナが逃げていった方向を見ながら答える
ダンテはそれを聞いて急いでその後を追った
ネロはダンテの名前を呼んだが、彼はそのまま姿を消した
自分も後を追いかけようとするが、自分の手をキリエに掴まれた
「…久しぶりね、ネロ」
「! あ、あぁ……久しぶりキリエ」
ナナは保健室には行かずに図書室に隠れていた
ここの学校の図書館は広い、隠れられる場所はいくらでもあるし人だってあまり来ない
(……やっぱり探しに来ていた)
ナナは自分の体を抱きしめる
ダンテに捕まってしまってはダメだ、今度こそどうなるかわからない……
あの夜の事を嫌でも思い出してしまう
タイミングを見計らって寮に戻ろう……
そう考えていた矢先
後ろから誰かに抱きしめられた
驚いて振り向くと、ナナの目に飛び込んできたのは銀色の髪、そして青い瞳
「捕まえたナナ」
つかまえた
090315