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大きな家に楽しそうに笑う声と、ある一人の少女に心を込めて歌う声が聞こえてきた
少女は家族みんなが自分の為に歌ってくれている事に微笑みながら一人一人を見ていた
歌い終わったのを合図に少女は目の前の母親手作りのケーキのろうそくの火を消した

「誕生日おめでとうナナ」
「ほら誕生日プレゼントだ」

母親に祝いの言葉を言われ、父親から大きな箱を受け取る
中身はなんだろうか、とドキドキしながら開けるとそこには大きなテディベアの人形が入っていた
これは前々から自分が欲しかったものだ

「ありがとう!ぱぱ!まま!」

笑顔で父―スパーダーと母親―エヴァに言った
二人も嬉しそうに微笑んでいる
そこに自分の双子の弟たちがやってきた

「ナナこれ」

双子の弟達バージルとダンテが「せーの」と声をかけて、二人の背中から花束を出してきた
この花たちはいつも3人で遊びに行く野原に咲いているものだ
子供の自分たちにはナナに買ってやれる金などない
そこで二人は彼女がこの花を好きだと言っていたことを思い出し、二人でたくさん摘んでプレゼントにしようと考えたのだ

「ありがとうバージル、ダンテ」

ナナの言葉に二人共嬉しそうに微笑んで照れていた
そんな中ダンテはナナに抱きつく

「ナナ嬉しい?」
「うん!このはなだいすきだもの!」
「おれもナナがよろこんでくれるならうれしい!」

微笑んで抱きつくダンテにナナは頭を撫でる
その様子を見ていたエヴァが微笑んだ

「ダンテは本当にナナが好きなのね」
「うん!だっておれおおきくなったらナナと結婚するんだ!」


小さい頃の僕は
その夢が簡単に叶うと信じていた



「ナナ起きて、朝よ」

高く澄んだ声に起こされて、ふと目を覚ました
カーテンの隙間から漏れる光にナナは目を細めた

「おはようキリエ…」
「おはよう。どうしたの?貴方が寝坊なんて珍しいわ」

すでに顔も洗って制服に着替えていたキリエがクスクスと笑う
ナナも時計を見て苦笑いする、自分がいつも起きる時間より30分ほど遅れているから

「さぁ準備して食堂に行きましょ」

ナナは今日から高2になる17歳
彼女は親元から離れて全寮制である、ここフォルトゥナ学園で暮らしていた
キリエはここで出会った同い年の女の子でルームメイトでもある
彼女に世話になりながら、楽しく毎日を過ごしていた

「ここが空いてるからここに座りましょ」

キリエが隅っこの方の席を取り、食事をテーブルの上に置く
ナナも彼女に続いて隣に座り食事を始めた

「今日から私たち2年生ね」
「そうね、もう1年が経ったんだね…」

ナナは自分が入学してきた日の事を思い出す
普通なら新しい制服に身を包んでドキドキする。それももちろんあった
だけどそれと同時に"彼"から逃げてきた事も思い出す

『どうしてなんだよっ!』
『なんで一人で行っちまうんだよっ!』

頭の中で彼の言葉が、声が思い出される

「ナナ?大丈夫?」
「! あ、ごめん…ちょっと色々思い出して……」

心配そうに覗き込むキリエにナナはハッと現実に戻った
キリエは大丈夫か、と見ていたがやがて話をすると

「今年の1年にね、私の幼なじみのネロって男の子が入ってくるから…よかったら仲良くしてあげてね」
「あ、うん……」

ネロ
ダンテやバージルと同い年の男の子か……

「ねぇ、そういえばナナにも弟がいるんでしょ?双子…だったかな?」
「!うん……」
「その子達は高校どこに行ったの?」

そういえば…
数日前に来た手紙ではバージルは公立でも一番頭がいい公立に行ったというのを聞いた

ダ ン テ は ?

ダンテはどこに行ったか知らない
多分、ダンテには悪いが頭の悪い公立か私立かその辺にでも行ったのだろう
悪いけどダンテはココには来れない
ココは私立でもレベルの高い学校だ。だからココに来たのはそれが理由でもあるのだが

「……バージルはココとそんなに変わらない公立に行ったわ、ダンテは……知らない」

その時校内に放送が鳴った
その内容はもうすぐ入学式が始まるから準備をしろということ、ナナはキリエと共に体育館に向かった


新入生たちは新しい制服に身を包んで、ドキドキした顔をしていた
長い校長の話が始まる
ぼんやりしながら話を聞いているとナナの肩をキリエがそっと叩いた

「あの子がネロよ」

キリエに指をさされた方向を見ると
銀髪の髪をした少年がつまらなさそうに話を聞いていた

「……っ」

似ている
彼に似ている
どうして今日はこんなにも彼を思い出させる出来事が多いのだろう
だけどネロは違う、彼ではない
そう考えればいくらか楽になるような気がした

『続いて新入生代表の挨拶』

校長の話がいつの間にか終わっていた
ナナがそう考えていると、キリエがまた話しかけてきた

「この挨拶って毎年入試試験でトップだった子が挨拶するんですって」
「そうなんだ……」

ナナはぼんやりとしながら誰が挨拶するのだろうか、と考えた
舞台の脇から出てきた人物に一部の女子が声を上げる

「あの人カッコよくない?」
「キャー!素敵!」

ナナは舞台に立った人物を見て目を見開いた

『新入生代表挨拶―――ダンテ』


神様
これは何かの悪戯ですか?


090106

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テーマ「人外ファンタジー」
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