明日は愛をあげたい


「おはようジョジョ!」
「ジョジョ!おはよ〜」

いつものようにたくさんの女子に囲まれながら門に入っていく男――空条承太郎
そんな彼はいつもその女子たちをうっとおしそうな顔をしながら追っ払っているのだが、まったく効果がない
その背中を遠くから見ている少女がいた

「うわぁ〜やっぱりモテモテだなぁ」

彼女の名前はなまえ
はぁ、とため息をついて自分も教室へと向かった

彼女は承太郎に恋をしている
しかし内気なためなかなか彼に話しかけることができずにいた。同じクラスなのに会話らしい会話をしたことがない
だが彼女は行動を起こそうと決意していた
それは数日後のバレンタインの日だ。承太郎に手作りのチョコを渡して気持ちを伝えようと決意したのだ


放課後
なまえは調理室を借りてチョコの試作をしていた
時々味見をしながら「おいしい」と頬を緩ませながら黙々とチョコを作っていた
その時扉が突然開いた
驚いてそちらを見るとそこには承太郎が立っていた。なまえが驚いて見ていると彼はそのまま扉を閉めて入ってきた

「…勝手に入って悪い。女たちがしつこいんだ、しばらく隠れさせてくれ」
「ぁ……ぅん」

なまえは承太郎から事情を聞いて返事をすると、すぐに俯いてしまった
目線は手元のチョコに行っている
突然二人きりになった事に心臓がドキドキしてしまって、彼を見ることができない
どうしようか、と考えていると承太郎は彼女の横に立った

「何作ってるんだ…?」
「! ちょ、チョコを……もうすぐ バレン、タイ ン、だか、ら……」
「……あぁそうか」

承太郎はそれを聞いて壁にかかっているカレンダーを見る
後数日で2月14日になる
彼はまたなまえに視線を向けた。気配を感じてなまえはドキリとする

「……あんた、同じクラスのなまえ…だよな?」
「う、うん」

名前を覚えててくれたんだ、と心の中で思った
なまえはクラスでそんなに目立つ方ではない、下手をすれば何人かのクラスメイトたちの中には印象に残っていないかもしれないのに
大好きな承太郎は覚えててくれた。しかも苗字ではなく名前の方で
なまえは勇気を振り絞って承太郎の方を見た

「私のこと…知って、たんだ……」
「……まぁな。……俺の事怖いか?」
「え?」
「……さっきから怯えたような話し方だしな、まぁクラスであんなに暴れてちゃ当然か」

承太郎が苦笑いして話す
なまえは別に彼が怖いわけではない。むしろ本当は優しい事を知っている
ただ上手く話せないのは彼の事が好きで話すのが恥ずかしくて……
教室から去ろうとする彼の学ランの裾を思わず掴んだ、承太郎も少し驚いてなまえを見る
なまえは自分のした行動に驚いていた。だけど想いを伝えるのだと彼に決めた
行動しないと始まらないと……

「怖くないよ……空条くんのこと」
「……そうか」

承太郎が少しだけ微笑んでなまえの頭を撫でた
大きな手のひらが撫でる感触に思わず目を瞑りそうになる

「……承太郎、でいいぜ」
「え?」
「空条くん、なんて呼ばれたくねぇ。俺もなまえって呼んでいいか?」
「うん……」

話して数分でお互いの事を名前で呼び合える中になるなんて夢にも思わなかった
いやこれは夢ではないだろうか?
なまえが考えていると承太郎がこちらを見つめてきた

「なまえ……」
「な、何…!?」
「焦げてるぞチョコ」
「え?……あ、うわわわっ!」

承太郎に言われて急いで鍋の火を止める
なまえの慌てた姿と声を聞いて承太郎はククッ、と笑う
そんな承太郎をなまえは少し上目遣いで睨む
それに気づいた承太郎はまだ少し笑っているが「悪かった」と再びなまえの頭を撫でた
本気で怒っているわけではない。だけどそれをされると嬉しくてなんでも許せてしまいそうだ
なまえは承太郎に微笑み返した

「……誰かにやるのか?チョコレート」
「うん……」

あげるのは貴方なんだけど……
なんていうのはまだ言わない。バレンタインの日にと決めているから

校内に下校時刻の放送が流れた
それを聞いた承太郎は「帰るか」と一言告げた
なまえもそれに頷いて急いで片づけを始める


なまえは何度か深呼吸して教室に入った
今日は何人の女子がいようと関係ない。渡すと決めたから
教室の中に入るといつもの席に承太郎がいなかった
不安になって辺りを見渡すと数人の女子の会話が聞こえてきた

「ねぇ聞いた?ジョジョってば誰からのチョコも受け取らないんだって」
「変よねぇ…今までは全員のチョコ受け取ってくれてたのに」

それを聞いたなまえは体が固まってしまった
彼女たちは気づいていないのだろうか?
チョコを受け取らない、つまり本命の彼女がいるということではないだろうか?
承太郎には彼女がいたのだ
そう考えるとなまえは涙が出そうになるのを堪えた


放課後
調理室に来ていたなまえは綺麗にラッピングされた箱を見つめていた
承太郎にあげるはずだったチョコレートだ。どうしようかと考えていると扉が開く音がした

「ここにいたのか」

今は会いたくなかった相手。承太郎が来た
彼はなまえの横に座りラッピングされた箱に気づいた

「……渡せなかったのか?」
「……ぅん」

なまえは俯いたまま返事をする
承太郎はなまえの頭を撫でると、箱を指差した

「それ俺にくれねぇか?」
「え?」

承太郎の言葉になまえはキョトンとする
が、すぐに苦笑いしてダメダメ、と首を横に振る
それに承太郎が何故だ、と首を少し傾げた

「……承太郎くんは彼女にチョコもらったんでしょ?」
「…彼女?何の事だ?」
「え?いや…だから……」

なまえは朝。女子たちが話をしていた事を思い出す
承太郎が誰からもチョコを受け取らなかったということを
その事を伝えるとやれやれ、と承太郎はため息をついた

「確かに誰からもチョコを受け取ってねぇよ…でもな俺に彼女なんていねぇ」

彼女がいない…?
それを聞いて心の中でホッとした
でも何故誰からもチョコを受け取らないのだろうか?

それに何故自分のチョコを欲しがるのだろうか?

「どうして…私のチョコを欲しがるの……?」

なまえの言葉に承太郎が少し顔を俯かせた
頬が少し赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか

「…鈍いなおめぇはよ…好きな女以外からはもらいたくねぇって思っただけだ……」

承太郎の告白になまえは嬉しくて涙を流した
その涙を承太郎が指で拭ってやると、すぐに何かに気づいてパッと離した
どうしたのか、と名無しは承太郎を見る。彼はチラリとなまえを見て顔を俯かせると

「…そのチョコ俺以外の男に渡すつもりだったんだろ?」
「ううん」

なまえの言葉に承太郎は驚いて彼女を見た
微笑んで承太郎に箱を渡す

「承太郎くんにあげるつもりで作ったの、ずっと前から大好きだったから」
「……お互い勘違いしてたって事か?」
「そうみたい」

二人でクスクスと笑いあった
承太郎はなまえの頬を両手で優しく挟んだ
なまえも彼の大きな手に自分の手を重ねる

「好きだなまえ」

彼はそう言うと彼女の唇に優しくキスをした


明日は愛をあげたい


確かに恋だった
090213


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