とびきりの愛情に触れる


別に期待していたわけじゃねぇんだが…


キッチンから鼻歌が聞こえる
それは承太郎の母ホリィによるものだ
今日は承太郎が生まれた日でもある。ホリィはそのために朝早くから息子のために料理を作っていた
しかし――
当の承太郎は不機嫌そうな顔をして部屋で煙草を吸っていた
別にこの年になって自分の誕生日をそんなに喜んだりするわけでもないが、不機嫌なのには理由があった
それは恋人のなまえの事だ

「ねぇ承太郎」
「なんだ…」
「今日はなまえちゃん来るんでしょ?」

今自分が考えていた事を言われて思わず眉がピクリとなる
ホリィだってワザと聞いたわけではない、しかし思わず睨みつけてしまう
その表情にホリィはシュンとなって「来ないの?」と悲しげに聞く

「…用事があるから来ねぇんだとよ」

承太郎はそれだけ言うと、吸っていた煙草を灰皿に押し付けまた新しい一本を箱から出す
ホリィはそれ以上何も言わず再び台所に戻っていく
その足音を聞きながら承太郎は昨日の事を思い出す


「なまえ、明日空いてるか?」

承太郎はなまえに尋ねた
彼女は明日何の日かわかっているだろう、とどこかで期待していた
自分の誕生日。なまえと祝いたいと思っていた

「……どうして?」

なまえは首を傾げて答える
予想外の答えに承太郎は少し驚いていた
だけど自分の誕生日だから来てくれ、とは言えない。本当に彼女は明日が何の日かわからないのだろうか?
そう考えると少しだけ寂しくなった
承太郎が返答に困っているとなまえが先に口を開いた

「ごめんね。明日は用事があるの」



その事で承太郎は不機嫌だった
誕生日だから何かしろ、ってワケでもねぇが…

『承太郎。誕生日おめでとう』

祝いの言葉ぐらい言ってくれてもいいじゃねぇか
俺はこんなにも落ち込みやすい奴だっただろうか?
お前と過ごせない、ただそれだけで……

承太郎は眉間に皺を寄せて、灰皿に煙草を押し付けた
その時こちらに近づいてくる気配を感じた
そして足音が近づいてくる。それは自分の部屋の前で止まった

「承太郎……?」

なまえの声だった
承太郎は驚いていたが、返事をしなかった
なまえは「入るよ」と言うと、部屋の扉を開けて顔を覗かせた
承太郎はそちらには向かなかった。なまえは彼の隣に座る

「……何しに来た」

自分でもわかるぐらい不機嫌な声で尋ねる
なまえはその声に驚いていた

「お前今日用事があるんじゃなかったのか?」
「あ、の…これを渡しに来たの」

怯えながらも鞄の中から袋を取り出す
承太郎がチラリとその様子を見る
鞄の中から綺麗にラッピングされた袋が出てきた

「誕生日おめでとう。承太郎」

なまえの言葉に驚いてそちらを見る
彼女とプレゼントを交互に見る。おずおずと出されたそれを承太郎は受け取る
その様子に安心したのか名無しはホッとして口を開いた

「これは……」
「誕生日プレゼント。それをさっきまで買いに行ってたの」

自分のプレゼント
それを聞いて承太郎は思わず微笑んだ

「……お前、俺の誕生日覚えてたのか?」
「忘れるわけないでしょー。……彼氏の誕生日なんだから」

用事があったのは自分のプレゼントを買うため
決して自分の誕生日を忘れていたわけではなかった
なまえはニヤリと笑う

「もしかして私が承太郎の誕生日忘れてると思ってた?それで機嫌悪かったの?」

図星だった
彼女の言葉に思わず承太郎は俯く

「やだ承太郎ってばかわいいー!」
「っ!うるせぇよ……」

クスクスと笑うなまえ
そんな彼女を見て愛しそうに見ると、その細い体を抱きしめた
なまえも承太郎の温もりに嬉しそうに胸の中で微笑んで、彼の大きな背中に手を回す
承太郎は名無しの脇の下に手をかけて持ち上げると、自分の膝の上に乗せた
彼の顔を見ればニヤリと笑っている

「…今日は俺の誕生日なんだからわがまま聞いてもらうぜ」
「な、何?」
「キスしろ」

承太郎の言葉になまえは思わず顔が赤くなる
彼を見ればニヤリと笑ったまま、これは聞くまで離してくれないだろう
覚悟を決めたなまえは目を閉じてちゅっ、と軽い音を立てて彼の唇に軽くキスをする
彼女の顔を見れば未だに顔を赤くしている。そんな彼女をもっといじめたくなる

「ど、どう…?」
「足りねぇ」

その言葉に驚いた顔をする彼女に、今度は自分から口付けた



090118


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