ドロシーの憂鬱


「暑い……」

ナナは額に落ちてくる汗を拭うとカンカンに照り付けてくる太陽を睨んだ
夏は嫌いだ。汗もやたらかくし匂いにも気を使わなければならなくなってしまう
買い物袋を持ちながらまた一歩歩き出す

(今日は帰ってくるかな…?)

1週間ほど前に任務で旅立ってしまったクリスの事を思い出す
2006年8月
なんでも長年探していた目的の人物の潜伏先を見つけたらしく、クリスとジルはそこに任務で向かうとのことだった
毎回ナナはクリスが仕事に行くたびに心配になる。もちろん長年の友人であるジルの事も、だが二人のコンビはBSAAでも最強と言われるほどだ
今回も無事に帰ってきてくれるに違いない

自宅に戻り冷蔵庫に買った食材を入れていく
その時玄関の扉の音が聞こえた
ナナはすぐに玄関へと向かう

「クリス…!」

玄関にはずっと会いたかったクリスが立っていた
ナナは彼に抱きつく

「おかえりなさいっ!無事だったのね…」

クリスは何も答えない
彼はナナを引き剥がすとそのまま部屋の奥に入っていく

「クリス…?」

様子がおかしいクリスに不安になって後を追いかける
クリスはそのままソファーに座り頭を抱え込んでいた
心配になってクリスの横に腰掛ける

「………ジルが」
「え?」
「……ジルが、俺をかばって崖から落ちたんだ」
「え」

その言葉に呆然となった
途端にナナの頭の中にジルの姿が蘇る
すぐに頭を回転させてナナはクリスの肩を掴む

「で、でも…まだ死んだって訳じゃないんでしょ?」
「当たり前だっっ!!!」

ドンッ!!

テーブルをクリスが拳で思い切り叩いた
その衝撃でテーブルが壊れる
壊れたテーブルを見てナナは身体をガクガクと震えさせた
その様子に気づいたクリスはすぐに冷静さを取り戻しナナを抱きしめた

「すまない……ヤツ当たりするつもりはなかったんだ」
「っ……」
「すまない…」

しばらくしてからやっと震えが止まった
途端に涙も零れてきた
クリスもナナを泣かせてしまった事を後悔した
彼女はクリスの腕の中から抜け出して自分の部屋へと閉じこもる
後を追いかけるクリスだがかける言葉が見つからず再びソファーに戻る

「ジル……ナナを泣かせないって約束したのにな……」


次の日
目が覚めたナナはシャワー室へと向かう
結局クリスとはあれから一言もしゃべっていない

「……クリスは謝ってくれたのに、このままじゃいけないよね……」

シャワー室から出ると玄関先からまた音がした
クリスだった
彼はナナに気がつくと優しく微笑んで「おはよう」と声をかけた
ナナも同じように返した

「昨日は…すまなかった」
「……私も、ごめんなさい」
「ナナは悪くない」

クリスはナナの頭を優しく撫でた

「どこに行ってたの?」
「あぁテーブル買いに……また少し出てくる」
「そう……」

きっとBSAAの本部に行って来るのだろうと悟った
クリスはジルを諦めていない
俯くナナを気にしてクリスは声をかける

「…なるべく早く帰るようにする」

クリスはナナの額にキスをしてから出て行った


その日の深夜
ナナの眠るベッドに一つの影が近寄る
ギシッと音を立てながらベッドに乗ってくる
気配に気づいたナナがうっすらと瞳を開けるとクリスがいた
彼はそのままナナを抱きしめる

「……ぉかえりなさぃ…」
「ただいま…」

なんとかその一言だけ言うと眠気がナナを襲う

「明日からジルの捜索が始まるんだ……俺も行こうとしたけどしばらく休め、って言われたよ。今のお前には無理だってな……壊れそうだって、それにジルだけじゃなく……ナナも失うって言われた」
「……ん」
「ジルだけじゃなくお前も失ったら…俺はどうにかなりそうだ……休みの間はたくさんお前を愛すよ」

クリスはそれだけ言うとナナの様子を伺う
だが彼女が起きていたのは最初の一言だけで、どうやら後は独り言になっていたらしい
ナナを強く抱きしめてクリスは目を閉じた



「ん…?」

意識を覚醒させたナナはベッドの横を見た
だがそこにクリスの姿はなかった
昨夜帰ってきたのは覚えている。何か言っていたような気もするのだ…
ナナは体を起こして部屋を出る
シャワーを浴びたクリスがちょうど出てきた

「おはよう」
「おはよう……どうしたの?」
「あぁ…外に走りに出て汗かいたからな……もっと鍛えないと」
「え?」

クリスは自分の腕を見て最後は独り言のように言った
聞き取れなかったナナが聞き返すが、なんでもない、と返された
一緒に朝食をとるのは久しぶりだった
お互い他愛のない会話をして楽しく過ごした
食器を片付け終わり買い物にクリスを誘おうとソファーに居る彼を見た

「…寝てる」

クリスはソファーで眠っていた
色々あって疲れているのだろう、起こすのはなんだかかわいそうだった
少しぐらいの買い物だし大丈夫だろうとナナは家を出た


一人で買い物をしているナナ
リンゴが安いと手に取ろうとしたときだった
突然その腕を誰かに掴まれた
見れば息を切らしたクリスがそこにいたのだ

「クリス!?」
「……どうして起こさなかったんだ?」

よっぽど慌てて出てきたのだろうか?
クリスに驚いたナナはすぐに彼に理由を話した
それを聞いてクリスはそうか、と答えたのだが

「……せめてメールでも残してくれ」
「……ごめんねクリス」
「いや、今度からは起こしてくれても構わないから……黙ってどこかに行かないでくれ」

クリスは臆病になっているとナナは感じた
この人は私がいなくなったら壊れてしまうかもしれないとさえ思わせる
クリスに優しく微笑んで「わかった」と答えると手を繋いで買い物を続けた



3ヵ月後
BASSがあれだけ大捜索をしたにも関わらずジルの遺体は見つからなかった
BSAAは書類上ジルの殉職が決まった


クリスとナナはジルの墓の前に来ていた
ナナは涙を流しながら彼女の墓の前に花を置く
そしてクリスに抱きついた

「クリス……っ」
「……ナナ」

クリスは優しく抱きしめる
そしてジルの墓を見つめて、決意した

「…俺は明日から仕事に復帰する」
「クリス…」

クリスを心配して見つめるナナ

「……俺はまだジルが死んだのは認めてないんだ。もしかしたらこれからの任務でジルの情報が入ってくるかもしれないだろ?」
「……うん、そうね」

ナナは二コリと微笑んでクリスを見上げる

「私も…あの親友がこんな事で死ぬなんて考えられない……クリスお願い、ジルを必ず見つけて」
「ナナ…」
「……もしクリスがつらくなったりしたらまた休んでもいいから、私が傍にいてあげるから……無理はしないで」

クリスだけじゃない
私もジルとクリスがいなくなったら壊れてしまう

「ありがとう……必ずジルを見つけるよ」



長くなってしまってすみません。ジルを失ってからの3ヶ月を書いてみました。クリスとヒロインにとってジルは大きな存在なんです、ジルとヒロインは大親友でクリスと恋人になれたのも彼女の力があったとか……まぁこの3人で仲良くしてたらいいなと、なのでこの3人の関係がどこか一つでも崩れたら危なくなってしまうのです。なんかクリスがヒロインもジルも好きになってて二股のような感じもするんですがあくまでクリスはヒロイン好きででもジルも大事な相棒だよ!とにかくクリスは臆病にしすぎてしまったかも…とかもあるんですが、次は男らしいクリスを書きたいな。またこの設定でジルが帰ってきた話とかでもいいし、3ヶ月間の間の話をもっと書くとか裏になっちゃいそうですがwここまで読んでくださりありがとうございます
約30の嘘
110103


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