泣く仔どもと眠る青


「はぁっ!はっ!」

暗くて出口の見えない道をただただ走り続ける
とても怖いが隣には愛しい人も一緒に手をつないで走ってくれている
何かわからないがとても怖いものに追いかけられていることがわかった

「くっ!」
「クリスっ!!!」

手が離れて彼がその何か、に足を掴まれて倒れてしまった
彼の元へ急いで走ろうとナナは近づくがクリスが首を振った

「来るなナナ!俺のことはいいから行けっ!!」

クリスの言葉にナナは戸惑いを見せる
だが暗いものがすぐにクリスを取り囲み彼の姿を消してしまう

「いや…いやあああああぁぁっっ!!!」



「っ!?」

ガバッとナナは体を起こした
額からは汗が流れ目からは涙が零れていた
乱れる呼吸を落ち着かせながら周りを見る、自分の寝室だった事に気づいて安心する
どうやら今のは夢だったようだ
ふと隣を見るがいつも隣で寝ているはずのクリスの姿がないことに気づいた
先程の夢のせいもあってかナナはすぐに起き上がって寝室を出た

「クリス!」

家の中を探し回る
キッチン、浴室……しかし彼の姿は見当たらない
まさかあの夢のように彼は消えてしまったのだろうか?
不安になっていく心にナナは再び涙が零れそうになる

「ぅ……ん」

かすかに聞こえた呻き声にナナは顔をあげて近くにあったソファーを覗きこむ
自分が探していた人物がそこで寝息をたてて寝ていた
ナナはすぐに彼の上に圧し掛かりぎゅう、抱きついた
彼の胸に耳をあてれば呼吸をしている音が聞こえる

「ん……ナナ?」

クリスは眠そうな顔をしながら自分に抱きついているナナを見る
しかし彼女は顔を上げないままクリスの胸に顔を埋めている

「どうしたんだ?」
「……なんでベッドにいなかったの?」
「?……仕事でさっき帰ってきた所なんだ。疲れてたからそのままここで寝てしまった」

彼の言葉を聞いてもナナは何も答えなかった
彼女の行動に不思議に思ったクリスはナナの顔をこちらに向けさせた
すると彼女は涙をためた瞳でこちらを見た

「! どうしたんだ?留守の間に何かあったのか!?」
「ち、がう……」

そんなんじゃない、とナナはぎゅうとクリスの胸に顔を埋める
クリスは困った顔をしながら起き上がってそのままナナを抱きしめる
落ち着くように彼女の背中を優しく撫でる
安心したナナはまたボロボロと涙を流す

「言ってくれ、どうしたんだ?」
「………怖い」
「ん?」
「…怖い夢を見たの……クリスが消えちゃう、変な黒いのに……」

ナナの言葉を聞いてクリスはきょとん、とした顔をする

「その夢のせいで……泣いてたの。だから別に留守の間に何かあったわけじゃないから……」
「すまない」

突然クリスが謝った
彼が何故謝るのかわからない
むしろ彼を困らせて心配させたのは自分なのだから自分が謝るべきなのではないだろうか

「……俺がこんな危険な仕事をしてるからナナを不安にさせてるんだな。だから怖い夢を見たんだ」
「クリス……」

確かに彼の仕事はいつも危険な仕事ばかりだ
いつも安全で帰ってくるとは限らない。怪我をして帰ってくる事だってある
最近までアフリカに行っていたクリスをナナは毎日不安な思いを抱えながら過ごしていた
それが精神的に限界が来て今日のような夢を見たのかもしれない

「わたし…もっと強くなりたい……」

クリスをこんな事で心配させたくない
いつでも安心して任務に出かけられるように笑顔で送りたい
彼の邪魔はしたくない

「ナナは十分強いと思うけどな、他の女ならもう俺のこと待っていてくれないと思うから……それに俺も強くはなかった。ナナと出会ってからだ」

今まで一人で戦ってきていた
もちろん仲間と多くの苦しみや悲しみを乗り越えてきた
だけどその空間にいれば耐えられてこれたのだが
いざ家に帰ってみると一人で、急に不安や孤独が襲ってくる
おかしくなりそうな気持ちだってあった

けど彼女と出会ってから強くなれた

「ナナがいてくれるから俺は強くなれた……ありがとう」
「……わたし、クリスの任務の邪魔してないの?」
「全然。むしろナナが待っていると思うと絶対に生きて帰ろうって気になる」

ぎゅうと力強く抱きしめられた
彼の心臓の音が聞こえてくる。あぁ…生きている音だ

「ナナ…俺の仕事は危険な事ばかりだ。これからも不安にさせるかもしれない」
「うん…」
「それでも俺はナナに待っていて欲しいんだ。……ダメか?」

クリスが少し不安そうに聞いてくる
ナナはクスッ、と笑ってクリスの大きな背中に手を回す

「今度はクリスが怖い夢見そうだもんね」

可笑しく言うナナにクリスはあぁ、と笑った
クリスはナナを抱き上げるとベッドに寝かせる
そして自分も横になってナナを抱きしめる

「クリス……?」
「もう1回寝るぞ、二人で寝たら怖い夢も見ないだろ」

自分が寝たいだけなんじゃ…とナナは呆れたが
すでに幸せそうな顔をして寝てしまったクリスを見て微笑み自分も目を閉じた





お互いがいないともう生きていけない二人
約30の嘘
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