取り戻せない時間に涙する


夢だったらいいと何度願ったか―――……


一人の少女が事務所の中で音楽を聴いていた
もちろんここの主が好きなロック系の音楽ではなく彼女が好きなクラシックだ
目を閉じながら静かに聴いていたが玄関の扉が開く音がする
少女はゆっくりと目を開けてそちらを見た

「ただいまナナ」
「おかえりなさいダンテ」

ダンテにニコリと微笑むナナ
その優しい微笑みにダンテは複雑そうな顔を見せた
ゆっくりとナナは立ち上がりダンテの方へと足を進める
ダンテが両手を広げてナナを待ち構えるが、ダンテの横を通り過ぎてしまう
その姿を見てダンテは眉間に皺を寄せてナナの腕を掴んで自分の胸へと引き寄せた

「……俺はここだ」
「…………あぁごめんねダンテ、気配で行ってみたけど駄目だったんだね。やっぱり目が見えないと………」

ナナが残念、と言って困ったように笑った
ダンテは苦しそうな表情をして彼女の顔を見た
彼女は自分の顔を見ている。だけどその瞳には自分の顔が映っていない

そうナナは目が見えないのだ

彼女はダンテが留守にしている間に悪魔に襲われ目を失ってしまった
もちろんダンテはその悪魔の居場所を突きとめ止めを刺してきたのだがそれでも怒りは収まらなかった
そして自分を追い詰めるようになっていた
それでもナナはダンテを責めることはなくいつもの様に変わらず接した
だがその優しさがまたもダンテを追い詰めているのだ

「ねぇダンテ」
「どうした?」
「……ぎゅうって力強く抱きしめて」

ナナがダンテの腰に手を回して力強く抱きつきながら言った
お安い御用だ、とダンテはナナを力強く抱きしめる
温もりを感じたくなったのだろうかナナは目を閉じて力いっぱい抱きつく

しばらくしてからナナが口を開いた

「ダンテ……私今日ここを出て行くわ」
「!」
「……前々からダンテも言ってたでしょ?ここを離れて安全なところで……実家で暮らすって話。ダンテの言うとおり私実家に帰るね」

悪魔にナナが襲われて、ダンテはここに彼女を置いておきたくなかった
また襲われて今度は命がなくなってしまったら……
自分ではナナを守ることができないとダンテは思った
ずっと事務所に、ナナの側にいることなんてできない。仕事をしに外に行かなければならないのに
ダンテはこの案をナナに言っていたのだが彼女はそれでもここにいる、と言って言う事を聞かなかった
それが急にどうしたのだろうか……?

「レディやトリッシュに荷物詰めるの手伝ってもらったの、後はダンテが帰ってきてこの事を言うくらいだったの……」
「…どうして急に出て行く気になったんだ?」
「だって………」

ナナは顔を俯かせ

「私がいたらダンテが泣いちゃう」

ナナの言葉にダンテは目を見開いた
彼女の目からは涙がこぼれていた

「私知ってるの……私が目を失ってからダンテは毎日泣いてて、元気がないこと……それは全部私が原因だから」
「……違うんだ、お前のせい、じゃ…っ」

悪いのは俺なんだ
ダンテは静かな声で苦しそうに言った
そんなダンテにナナは首を横に振ってダンテの顔を撫でる

「ダンテのせいじゃないよ。私ダンテと一緒になったときからこのぐらいの覚悟はしてた……運命だったんだね、この事故は」
「悪い……」
「ううん、いいの」

ナナは足下に置いていた鞄を何とか手に持った
そしてダンテに手を引いてもらい玄関へと向かった、ちょうどその時外からバイクの音が聞こえた
多分レディだろう
ナナはその場で立ち止まりダンテがいる方向を見つめる

「…じゃあ行くね?」
「………ナナ。不幸にさせて、すまない」

ダンテの言葉にナナは首を横に振った

「不幸だなんて……私こんな事になっても自分が不幸だなんて思ってないよ。ダンテと暮らせて一緒に入れてすごく幸せだった…目が見えなくてもダンテといれるだけで私幸せだったよ」
「………」
「ねぇ……もし、もしね…私の目が見えるようになる機械とか薬とか開発されて目が再び見えるようになったら……また一緒に暮らしてくれる?」

ナナは自分の言葉にふっ、と笑った
口にはしたくなかったそれはあまりにも希望のない未来
それをわかって彼女は笑ったのだろうか

「……もし良くなったとしても私はおばあさんかもね」
「……それでもいい」

ダンテはぎゅう、とナナを抱きしめた

「婆さんになってもお前が再び俺を見えるようになるのなら……いつまでも待っている、また一緒に暮らそう」

ダンテの優しい言葉にナナは涙を流した
また一緒に君と暮らせる未来を夢見て

「……ん、うん。ありがとう…ダンテ…っ」



TRRRRRRRRRR

電話のベルの音でダンテは目を覚ました
目が覚めたときには頬を涙が伝っていた
悪魔は泣かない、と誰が言ったのか
ナナの事は諦めてるはずなのに、こうして夢に見るという事は自分はまだ彼女を求めている

TRRRRRRRRRRRRRR

電話のベルはまだ鳴っている

「……悪いな。今日は閉店だ」

ダンテはそう言うと再び目を閉じた





すっごくシリアスになりました…ダンテと一緒に暮らすというからにはこういう事もあるんだろうなぁって…ヒロインはそれでもダンテと入れた事の方が幸せなのです
100117



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