囚われのハンプティー
雨は嫌いだ――……
「ダンテ、起きてダンテ!」
自分の身体を揺らされるのを感じてダンテは重い瞼を開けて起こしに来た彼女――ナナの姿を捉えた。そして両手を伸ばして彼女の首に手を回してグイッ、と自分の方に引き寄せて頬にキスをした
「おはようナナ…このまま一緒に寝ようぜ」
「だ、駄目よ。もうお昼なんだから…」
「固いこと言うなって…」
ベッドの中に引きずり込まれそうになる、まずいこのままでは彼のペースにハマってしまう。ナナはダンテの露になっている上半身を叩いて何とか彼の腕から抜け出した
「いてぇっ!」
「さっさとご飯食べて、それから買出しもお願いね」
ダンテは叩かれた箇所を撫でながら小さく舌打ちをした、ナナは閉ざされたカーテンを開けながらダンテに話す
「雨降ってきそうだから急いだ方がいいよ」
そう言って彼女は階段を降りて行く、残されたダンテは先程ナナが開けた窓から空を見上げた
「雨か……」
****
「チッ…結構降ってきたな」
ナナに言われたとおりに昼ごはんを食べてからダンテは夕飯の買出しに出ていた、雨が降り出す前に帰れるだろうと思っていたため彼女に言われても傘を持っていかなかった、もともと傘なんて差す柄でもないのだが…買出しをすべて終えて雨が降ってきた、ダンテとしては別に濡れて帰っても構わないのだが食材もあり濡れてしまっては彼女が怒るだろう。仕方なくダンテは適当な場所を見つけて雨宿りをしていた
「すぐにやみそうにねぇな…」
空から降ってくる雨を見つめてダンテはふと思い出す
ちょうど行方不明の兄と再会したのもこんな雨の日だった。だが感動の再会に抱擁するのでもなく刃を交えて戦った、やがてそれはただの兄弟喧嘩ではなくなり世界を巻き込む事態になってしまった。そして最後の戦いで魔界に堕ちて行く兄の手を握ることができなかった
また一人ぼっちになってしまったのだ…
「嫌な事思い出しちまったな……!?」
ふと、ダンテは目の前に現れた人物を見て目を大きく見開いた
その人物はダンテに背中を向けて立っているのだが見覚えがあるのだ。青いコート、父親の刀、銀色の髪……
「バージル……!?」
だがバージルはこちらをちらっ、と見てそのまま歩き出した。ダンテは思わず手を伸ばしかけたが自分の目をこすってもう一度見ればそこに彼の姿はなかった
「幻か…ハハッ…」
だから雨の日は嫌いなんだ、とダンテは呟いた
人もいなくなり音さえも聞こえなくなってしまう、この空間が…そして兄の事を思い出してしまうから
「ダンテ」
「……え?」
声をかけられて見れば傘をさしたナナがそこに立っていた
「よかったー見つかって」
「…お前なんでここに?」
「なんでって…ダンテを迎えに来たのよ?傘ささずに出て行ったし…今頃困ってるんじゃないかと思って」
あちこち探し回って大変だったんだから、とナナは言った
彼女はバージルが消えた方向から来たんだろうか?
「なぁナナ…」
「ん?」
「…途中で誰かに会ったか?」
「え?誰もいなかったけど…どうして?」
「……いや、なんでもねぇよ」
ダンテを不思議そうに見ていたナナだがダンテに持ってきた傘を渡す、そして自分が先に傘をさしてダンテを待った
「ほら、帰ろうよダンテ」
「……あぁ」
もしかしてさっきの幻は彼女をここに導いてくれたのだろうか?とか色々と考えてみるがしっくりと来ない。だがダンテは自分が握っている傘をじっと見つめた
雨の日は嫌いだ、嫌な事を思い出すし。一人だけの世界になったような気がするから…
だけど今は
「ナナ」
「なに?」
「迎えに来てくれて…ありがとな」
「どういたしまして」
ニコリ、と彼女は微笑んだ。それからダンテは傘をさして、二人で事務所に向かって歩き始めた
だけど今は
迎えに来てくれる人がいるから
雨の日も悪くはない
囚われのハンプティー
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ダンテは雨の日は苦手だと思うんです、バージルを思い出すから
自慰
120203