ヒーローになれない


ダンテとケンカしてこの怒りをどこかにぶつけたくなってとりあえず「ばか!」と上半身裸の彼に一言ぶつけてから事務所を飛び出した
あちこち角を曲がってエンツォが飲んだくれてるバーにでも行こうかと思ったけれど酒を飲んだところで気分が収まるわけでもない
誰かに愚痴を聞いてほしいと望んでふと思い出した男の方へと自然と足が進んだ


* * *

「毎回毎回来られると迷惑なんだがな…」

一つの寂れたアパートにバージルは住んでいた、ダンテの事務所から数十分離れた場所に
昔はダンテの事務所で暮らしていたのだがナナがダンテと暮らし始めてから彼は出て行った
彼なりの気遣いだったのだ
しかしダンテと何かあるたびにナナがやってきてはダンテの愚痴を延々と聞かされてきたのでバージルも頭を抱えていた
おまけに今日は彼女が酒を飲みながら愚痴っているので余計に性質が悪かった
空になった瓶を地面に放り投げて再び彼女が口を開く

「何よーバージルの弟なんだからなんとかしてよー」
「無理だ、俺にもアイツを何とかする事などできん。わかったらとっとと帰れ」
「えー何よそれー」

ばか、ばかバージルのばかーと文句を言いながら身体を叩いてくる
もちろん本気ではないし彼からしてみれば痛くもなんともないのだがこう絡んでくるとうっとおしくて仕方が無い
さっさとあの弟が引き取りに来てくれないかと願うばかりだ

「貴様…いいかげ「別にさ…ダンテに仕事を辞めろなんて言ってないの……ただ血まみれで帰ってきたときとか悪魔の血が流れてるから平気なんて言われてもやっぱり心配になっちゃうよね……豪勢な暮らしじゃなくていいから…その日一日だけでも食べれるぐらいの暮らしでいいんだよわたし…」

最後の方には寂しそうに言うナナにバージルは口を開いた

「全部お前の為だろ。お前に少しでも苦労をかけさせたくないからアイツは必死になって働いているんだろう、アイツは頑丈にできてる。お前が思ってる以上にな」
「……うん」
「お前はここにいるべきではない、さっさと帰ってやれ」
「バージルってすごく優しいね……いつも助言してくれてありがとう」

ニコリと微笑んでナナはソファーに寝てしまった
そのまま眠る彼女を見つめていたバージルはソファーに片足をついて顔を近づけるとふっ、と笑った

「俺は優しくなどない」

唇を近づけようとしたとき扉が開かれる音が聞こえたのですぐにソファーから身体を離した
眉間に皺を寄せたダンテがやってきたのでバージルはため息をついた

「遅いぞ、とっとと迎えに来い」
「悪かったな…たくっ、何で毎回毎回バージルの所に行くんだよ」
「気に入らないのなら首輪でもしておいたらどうだ?」

寝ているナナを抱き上げたダンテはそのまま出て行こうとしたのだが、何かを思い出したようにバージルの方を振り向いた

「ナナに手を出してねぇだろうな?」
「……そうだな、今のところは」

口の端を上げて笑うバージルに目を見開くとダンテはまた眉間に皺を寄せて部屋を出て行った




星葬
131208
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