『…わぉ、バレンタインってだけでこんなに雰囲気が変わるんだ』
そわそわしたような、ちょっといつもとは違う。男子にとっては、やっぱり特別らしい。…女子にとってもか。
『あたしは、関係ないけどねー』
廊下を歩きながら思う。自分にも好きな人がいたなら、今日というこの日も特別な日になっただろうに、なんて。
しばらく歩いていると、定番というか。やっぱり今年も目撃してしまった。
「好きです!」
可愛らしい声は緊張で少し震えている。別に悪気はないんだけど、どんなヤツが告られちゃってんのかなぁ、と思って人目の少ない裏の階段をチラと見た。
『………』
「………ぷ」
「…沖田くん?」
そこの女の子ォォオ!!
そいつは、愛らしい皮を被ったドS悪魔だよ!!!
そう言いたいのを精一杯我慢して、あたしのことを鼻で笑ったヤツを睨んだ。
「ああ、返事ですねィ。…悪ィけど、ソイツだけ置いてってくだせェ」
「え……、……」
っ…はぁぁぁぁ!?
チョコだけ置いて居なくなれ、だと!?
案の定、女の子は走り去ってしまった。
『あんたねぇ…っ』
「なんでさァ」
総悟の言葉に、あたしは一旦深呼吸をした。
『…、あの子がかわいそう』
「俺は1人だけなんでさァ、心が欲しいのは。ま、チョコは貰うけど」
少し淋しそうな目元が気になって、詮索するのはやめた。
『ふーん、じゃあね』
「…お前からのチョコは?」
『え……、欲しいの?』
…あれ、今。……ああ。
『あー、はいはいなるほどね。ちょっと待って、確かカバン中にチョコが…』
「俺あて、ってのはねーのかィ?」
あたしの言葉を遮って総悟は言った。
「俺、結構わかりやすいと思うんですけどねィ。…お前からのチョコが欲しいんでさァ、気持ち入りの」
パチパチと瞬きして、あたしは固まった。
何て?今、なんつった?
そんなあたしの心情が伝わったのか、総悟はため息を吐きながら前髪を掻き上げる。
「だから…。お前が好きなんでさァ。お前が俺のこと何にも思ってないってことは知ってるけど」
『でも…』
「伝えたかっただけ。……こんな日だし、俺もちったァ純粋だろ?」
Valentine◇purity
『そそそ、れは……』
「そーゆーことだから、爆撃には注意しときなせェ」
『なんで爆撃!?』
-----
バレンタイン、じゃなくないですか。チョコ渡してないし。
ていうか、チョコ欲しい。
prev next
back