ありがとう、と伝えたかった。
なのに口から出るのは、いつも通りのひねくれた言葉たち。
好きだよ、は嫌いだバカヤロに。
ごめんね、は調子乗んなよに変換。
「透はホントひねくれてんな」
土方さんには数えきれないほど、そう言われた。知ってますよ、そんなこと。
それでもね。
やっぱり今日こそはちゃんと言わないといけない気がして。
だから、あたしはここに1人で出向いたんだよ。
『総悟』
振り向いたのは、あたしを庇って傷だらけになった人。痛々しいその姿に、思わず目を背けた。
「なんでィ。透がここ来るなんて珍しい」
病院は嫌い、だいっきらい、死ぬほど嫌い。好きな人は滅多にいないと思うけど、あたしはここに近寄ることすら嫌だった。
『お見舞い』
たくさん話すとすぐに嫌味な言葉が出てきちゃうから、単語で話す。不自然だろうが、嫌味を言うよりはマシだろう。
先日、比較的大きな仕事があった。勿論あたしも現場に駆けつけ攘夷浪士たちに斬り掛かっていった。時間が経ち全ての攘夷浪士を殺ったと思った時、ふと、視線を感じた。その時に、ちゃんと辺りを見渡せばよかったのに。あたしは気にせず、刀を鞘に収めた。瞬間、大きな叫び声と共に男があたしに襲いかかった。ここから先は大方予想がつくだろう。総悟があたしと男の間に入って身代わりになり斬られたのだ。その後男は斬り倒したが、総悟は重傷を負った。
『その、…傷は、』
「大丈夫でさァ。医者も命に別状はないって言ってっし。つーか……何泣きそうな顔してんでィ」
呆れたように総悟は息を吐いた。そして、チョイチョイと手招きをする。
総悟のベッドの近くに行った。
「気色悪ィ」
『んなっ、………』
あ、ぶない。暴言を吐いちゃうところだった。
けれど総悟は、あたしのこの態度が気に入らないらしい。眉間にシワをよせて、睨んでくる。
「なんか隠してんのか?らしくねー」
『隠してなんかない。ただ…』
「ただ?」
ふぅ、言わなくちゃ。
『ありがとう、ってお礼が言いたかったんだ』
目を少し見開いた総悟は、ほがらかに笑った。
「透の気持ちくらい普段からわかってらァ。お前はお前らしくいればいいんでィ。どんな透でも俺は」
素直
あたしはあたしらしく。
そんなあたしをあなたは愛してくれるから。
でも時々は素直になりましょう。
甘さが見えない。どこに消えた?
prev next
back