-銀時side-
「銀ちゃん!!」
たった今逃げるようにしてここを出ていった女を、悲しみを含んだ目で見ていた神楽は俺を睨んだ。
「…なんだよ」
「本当にわからなかったアルか?」
「……」
コイツの言いたい意味はわかる。だけどわからない振りをした。新八の眉間にも珍しくシワが寄っている。
「…透さんの後ろ姿に気が付かないなんて、銀さんどうしてしまったんですか?」
「……透?アイツがここに来るわけないだろ」
俺がアイツの後ろ姿がわからないわけがない。すぐにわかった。俺は未だに忘れられない透を頑張って忘れようとしてんのに……それに俺の顔なんて見たくないんじゃねェのかよ。
自分の世界に入っていれば不意に引っ張られた服の袖、横を見れば頬を膨らませた女がいた。
「なんの話ー?」
「なんでもねェ」
透を心からも身体からも無くす為にこの女と付き合うことにした。でも心からも身体からも無くなってなんかくれなくて、ただ透が欲しいと止められない気持ちだけが大きくなっていく。
「銀さん」
こんなに落ち着いた声は珍しい。
「ちゃんと透さんと話しましたか?」
話さなくても答えなんかわかってる。
「おー」
適当に返事をして奥の部屋に入った。
「銀ちゃん」
はぁ…この女に自分の名前が呼ばれようと何も感じない。むしろ、気持ちが悪い。
「ねぇ、今日も抱いてくれるんでしょ?」
たくさん抱いて気分を紛らわそうとした。でもその行為から生まれたものはただの虚しさだけ。
「ここはチビもいるし無理だ」
「そんなこと思ってないくせに…」
身体を密着させてくる女に対して吐き気がする。無理やり身体を引き剥がした。
「……最悪」
終わった。家を出ていった女を見ながら、これで気持ちを紛らわすために何人目だろうかと考えた。結局、透を思い出しちまって全て無理だった。
あぁ、頼むから。
戻ってきてくれ、透。
いつのまにか、新八と神楽はいなくなっていた。
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