鬼斬 | ナノ






第十二訓
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『え…、嫌です』

その日、私は初めて任務をやりたくないと思った。

「気持ちは分かるんだが…」

「悠くらいにしか出来ねェんだ」

近藤さんと土方さんがまたしても困った顔をする。

『俺じゃなくても。ほら、沖田さんとか!』

「総悟はあんなんでも一番隊隊長だ。力があって、尚且つ見た目的にも悠、お前が丁度いいんだよ」

『うっ、』

土方さんに言いくるめられれば終わりだと、わかっていたのに。こう言われたら、やるしかないじゃないか。

「頼む!」

『…はぁ、近藤さんわかりましたから頭上げて下さい。平隊士の俺に頭なんて下げないでくださいよ』

「ははっ、そんなもの関係ないさ。悠は俺達の家族だろう?」

…相変わらずな近藤さんだ。
やっぱり、あったかい。

『で、それはいつなんですか?』

「明日だ」

『えらく、急ですね』

「…まぁ、な」

私の立ち位置がとても重要だと気付くのは、もっと後のこと。

『詳しい作戦、教えて下さい』















ここら辺、か。

…任務当日。初の1人任務に若干緊張したけど、私の相手は雑魚ばかりらしい。

明らかにヤバいと思われる雰囲気に、ここらが目的の場所だとすぐにわかった。

作戦、決行だ。

『あのぉ、』

「なんだ?……こんな可愛いお嬢ちゃんがなんでこんなところにいるんだい?」

『道に迷ってしまって…教えていただけませんか?』

我ながら気持ち悪い。

こんな声を出していたら、昨夜のことを思い出した。












『なにやってんですか』

夜、近藤さんに呼び出されたと思ったら、部屋には色々な種類の着物が広げられていた。

「来たか!好きなやつ選んでいいぞ!」

『ゴリラ全滅してしまえ』

「…え、それ俺に対して言ってる?」

女装(元からだけど)、という話は聞いていたけど。

………………なんで、ミニ丈?

「早く選びなせェ。これなんかどうだ?」

そう言ってピンクの着物を差し出したのは昼間にはいなかった沖田さん。

つーか、え。

その着物、背中が総レースなんですけど。

「これはなぁ、とっつぁんが用意してくれたんだ」

『とっつぁん?』

「悠は知らないのか、また会わせないとなー」

とっつぁんとやらは、どういう選び方してやがるんだ。

『ともかく、俺はこの中の着物は絶対着ませんから!』

「なんででさァ?」

『なんでって!男ですよ!男がミニ丈履けるわけないだろ!』

大声を出す私をジト目で見てくる沖田さん。

「任務目的わかってんのかィ?攘夷浪士を釣るんだぜ。…ミニのが成功率高いに決まってんだろ」

………最悪だ。

「つーことで、コイツ着てこい」

手にしっかりと握りしめさせられたのは、紫を地にした艶やかなミニ丈の着物。そして、ロングのウィッグ。

『…はい』

半泣き状態で、自室に着替える為に戻った。








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