鬼斬 | ナノ
第十三訓
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刀を鞘から抜いて、襖を一心に切り裂いた。
「……やっと来たか」
聞こえたのは予想通りの人物のもの。
「高杉ィ……悠を返しな」
「コイツはてめーのモンじゃねェ。それに、悠なんてコイツが呼ばせてるうちは尚更な」
「…どういう意味でィ」
いつも通りの派手な着物に身を包んでいる奴は、ククッと笑った。
「知らねェならてめーはその程度なんだろ」
先程から意味のわからない苛つく言葉ばかり投げつけてくる。
「で、アイツはどこにいるんでさァ?」
「ここにいるぜ」
悠を探す為、辺りを見回す。しかし現れたのは、椅子に座り純白の着物を身にまとった美しい女だった。
「…アイツは」
「何言ってんだ?いるじゃねェかここに」
「いるのはその女しか……、!!まさか、その女…」
「…、綺麗だろ。てめーらが男にしてるコイツはな」
ぐったりとして、目を閉じている女は確かに悠だった。
「女だってのは知ってんだろ?…なら今度は実名を教えてやろうかねェ」
聞いたら何かが壊れる気がした。だが、聞かなければいけない気もした。
「コイツの実名は……」
「今晩は、……この男だ」
きっと、今の私の刀は血だらけだ。早く綺麗にしないと、錆びてしまう。早く、…早く。
「………痛い、痛いよォ」
ハッとして振り返った。聞こえたのは、あたしと同い年くらいの男の子の泣き声。無視して進めばいいのに、何故か足は動かなかった。
「泣き止みなぁ、その持ってる金くれたら逃がしてやるからよ」
「い、やだ。姉上のお金なんだ!」
「ちっ、うっせーチビだな」
男の子の周りには大人が数人。寄って集ってバカな奴だと思った。取り囲まれてる男の子も、バカだなと思ったけど。
その時、男の子がいきなり動いた。
「…っ、いってー!チビ何しやがんだ!」
男の子は1人の男の足に噛み付いたのだ。しかし、その男が少し怯んだだけで状況は全く変わらない。それどころか、更に悪化したような気もする。
けれど、私の中で、その男の子の勇気になんだか心が揺れた。私とは違って。
「オイ、無理矢理取っちまえ」
「や、やめろ…っ」
これはほんの出来心。タイミングとかもあったかもしれない。でも、偶然ではない気がした。
数秒後、あたしはその男の子に手を差し伸べていた。
「だ、大丈夫なの?」
『あ、ぁ』
こんなの相手にもならない。私の体には傷ひとつ付けられやしない。
「ありがとう」
この後、男の子をおんぶして歩いたのも今では良い思い出というのだろう。
出会ったのは栗色をした髪の姉弟。
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