鬼斬 | ナノ
第十三訓
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「で、店の名前はわかったのか?トシ」
今夜は空に大きくて美しい月が掛かっている。
―…満月、不気味な夜。
「無線機が壊れていて、聞き取りずらかったんだが……“オウセ”と聞こえた」
「すぐその店を隊士に探させまさァ」
総悟が部屋を出たあと、近藤さんが慰めるように俺に言った。
「お前のせいじゃない、それに、アイツは強いだろう。心配するな」
だが、おれが気付いてさえいれば壊れた無線機を悠に渡さなくてすんだのに…。
悪い方へと考えていることに気付いて、自分を叱咤する。
……今は、悠を助けることに集中しろ。
『それは……っ』
「お前の欲しかったモンだろう」
高杉晋助の手の中にあるのは、美しい漆黒の粉が入っている瓶。
私が、真選組に入った理由。
『なんで、幕府の敵である貴方が持ってるの』
「ククッ、俺は幕府とも繋がっている……と言えば正解か」
『…どうゆう…意味…?』
「まァ、この話はまた後でだ。蘭であるとわかった以上帰らせるわけにはいかねェ。それにそろそろ……効いてくるだろ」
『効いてくるって……!?』
体が一瞬ふらついた。
『しびれて…っ』
ガクッと膝をついたころには、意識はもうほぼ途切れかけていた。
「手に入れる為ならどんな方法でも、か………あながち間違っちァいねェな…」
『な、にが…!』
「もうそろそろ、幕府の犬が来るだろ」
助けてほしいけど、
あの人たちには傷ついてほしくない。
ワガママなのはわかってる。
けど……
「あいつらの青ざめる顔が楽しみだなァ」
あたしの力が使えたなら。
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