鬼斬 | ナノ
第十二訓
――――――――
目の前の男は相変わらずニヤニヤしている。
「お兄さんがイイ所に連れていってあげるよ」
どう考えてもお兄さんって年じゃねーだろ、と思いながら静かに男の後をついていった。
『………ぅゎ』
「どうしたんだい」
『いえ?連れてきていただきありがとうございます』
いかにも、だな。
下品なネオンに、雰囲気までもが濃い。
『では、私はここで…』
ここまで連れてきてもらえば、あとは攘夷浪士の密会場所を探すだけ。この男とはおさらばだ。しかし、男はなおも私から離れようとしない。
「ちゃんと店まで連れていってあげるよ」
掴まれた腕に嫌悪感を感じながら、仕方なく一目につかなさそうな場所に引っ張って気絶させた。
『ふぅ…でも、こっからが危険なんだよな』
自分は色気ムンムンの女だ!と思い込んで、攘夷浪士を捜し始めた。
あとを付けられていたことにも、無線が繋がりにくいことにも、早く気付ければ良かったのに。
『…桜瀬、でございますか』
なんと運の良いことに、話しかけて1人目で攘夷浪士らが密会をしているであろう店を見つけることが出来た。
「あぁ、なんでも夜な夜な帯刀をしたガタイの良い男達がその店に入っていくらしい。俺は見たことはないんだがね、聞いた話だ」
『そうですか、ありがとうございました』
お礼を言って頭を下げれば、心配そうな顔をしてその男性は言った。
「女1人で何をするつもりかは知らんが、なるべく関わらない方がいいと思うぞ」
『心配などしてくださり、ありがとうございます。けれど、心配にも及びませんわ』
「……なら、いいんだが」
男性が去った後。真選組に連絡を先にしようと思って、無線を繋げる。
……あれ?
繋がらない。
ごちゃごちゃと無線機をいじくっていたら、やっと繋がった。
《なんか、掴んだのか》
『はい、なんでも“桜瀬”っていう店に集まってるみたいです』
《…あ?》
『だから、“桜瀬”って店です』
《電波が悪いのかわかんねェが、悠の言ってる言葉が聞き取れねェ》
おかしいな。こっちは土方さんの言葉よく聞き取れるのに。
『おかしいですね。…店の名前は“桜、………』
《………悠?おい、どうした》
話している最中、後ろからの気配に気付けなかった私は頭を何かで殴られたらしい。
痛みに耐えることが出来ず、足元から崩れ落ちた。
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