鬼斬 | ナノ
第十一訓
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部屋の中から俺に声がかかった。
「ごめんなさいね、信じることにしてしまったわ」
「俺のこと気付いてたんですかィ?」
「いいえ、ついさっきよ。この子が眠ったときに気配を感じて、じゃないとむやみにこんなこと話したりしないわよ」
しばらくして悠の頭を撫でる手を止めた菊子さんは俺を真正面から見た。
「私みたいな雇われババアの話なんて聞いてもらえるとは思っていない。ただ……この子のことは他言しないでいただきたいの」
「………」
言われることはわかっていた。けれど俺も一番隊隊長という身、もし悠が嘘をついていて攘夷浪士のスパイだったら?と思うと勝手な判断など出来ない。最悪、自分のせいで真選組が潰されることもあり得るのだ。
だが、
「俺ァ、コイツを知っている気がするんでさァ。俺がまだガキの頃……本当は今すぐ近藤さんや土方さんに言うべきだろう」
「えぇ」
「でも、そんな気にならないんでさァ。俺もコイツを信じたいと思っちまってる」
「……沖田さん」
もし何かあったらどうするんだ、とは思う。
なんでこんな平隊士なんざ、女とはいえ、俺がこんな風に感じるのはおかしい。
守ってやる、なんて。
心の奥底、自分でもわからない。本能的にそう思ってしまった。
「これからも、悠は普通の平隊士。菊子さんはコイツをサポートしてやってくだせェ」
「ふふ、ありがとうございます」
それ以上話すことがなくなり、俺は自分の部屋へ帰った。
「はっ…馬鹿だろ」
色々と。
よくよく考えてみると、噂に現実味が帯びてくる。
…女…アホ毛…強さ…
クスリの為に此処へ来た?
考えても悪い方向にしかいかない。
「…面倒くせェ」
結局、答えなんて出るわけもなく。いつものアイマスクを着けて今日もサボることにした。
(「総悟はどこだァァア!」)
(「ちっ、土方コノヤローが」)
(「テメー仕事しろォォオ!」)
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