鬼斬 | ナノ
第十一訓
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医務室に着いた俺はそこにいつもいる年配の女性<菊子さん>に話しかけた。
「あら、久しぶりね。…その子を連れてきたのね、見せてちょうだい」
言われた通りに悠をベッドに寝かせる。
「こいつ、いきなり倒れたらしいんでさァ。ちょっとの間寝かせといてやってもらえやせんか」
「勿論よ、隊長さんはお仕事いってらっしゃいな」
「すいやせんね」
仕事なんてする気はさらさらないがそう言って、医務室をあとにした。
……深い暗いところにいる。酷く息がしずらい。
気が遠くなるほどの場所にあったはずの光はとうの昔に消え失せていた。
まだ、私は逃げることが出来ないの…?
『………は…っ!』
いきなり目を覚ました場所は消毒液の匂いがした。
「あら…起きたのね」
『…えっと』
「ここは医務室、私は菊子、よろしくね。あなたいきなり倒れたんだってね」
そうか、あれから誰かに運んでもらったんだ。
『すみません』
「いいのよ私の仕事だしね。……それより、あなた……
………女の子でしょう?」
いきなり過ぎて驚いた。焦って焦ってどう反応すればいいのかも分からなかった。
「何か理由があるのよね?何もばらすわけじゃないわ、ただ聞いているだけ」
多分、いまここで違うと言っても意味はない。それなら、この人だけにでも正直に言うしかない。信じるしかない。
『…はい、そうです』
「そう…理由は教えてもらえない?」
『………。でも、真選組を潰そうとかそんなことは考えてないんです!信じてください…!』
菊子さんはじっと私を見つめた後、優しい笑顔を見せてくれた。
「本当はいけないんだろうけど……私はあなたを信じるわ。そんな泣きそうな顔して…。私もちょうどね、癒しが欲しかったのよ。ほら、ここ男ばかりじゃない?」
『菊子さん……ありがとうございます。俺に出来ることなら何でもしますんで!』
菊子さんは私の頭に手を伸ばし、ポンッ、弱く頭を叩かれた。
「私の前だけは、あなたは女の子よ。くれぐれもばれない様に気を付けて、出来る限り私も協力するから。……本当の名前は……」
『悠、でお願いします。内緒ばかりで本当にごめんなさい。話せるようになったら話すから…っ』
「いいわよ、ただ悠ちゃんって呼ばせてちょうだい」
『はいっ』
お母さんの様なお姉ちゃんの様な、菊子さん。真選組屯所の中にこんな存在が出来たことは私の不安を少なくしてくれた。
『また…来てもいいですか?』
「勿論!いつでも来てね。……話し過ぎてしまったわね、ほら安心して寝てなさい」
頭をなでなでされていると、自然と瞼が重くなってきた。
『おや…す、み…なさい』
今度は深い闇の中じゃなくて、暖かな光の中へ行ける気がした。
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