カナ様が帰ったのは結局夕方過ぎだった。妖怪の姿を見られる、と焦った若様が無理やり帰らせたらしい。

その頃はちょうど時間が空いてしまい仕方なく自室に戻りじっとしていた。

『なにか、楽しいことを考えよう』

しかし頭のなかを探っても若様に関することばかりで……。こんなにも想ってしまっていたのか、と一層気分が暗くなってしまった。

ガラガラ。襖が開いたのは、私が自分の頬をペチッと叩いたのとほぼ同時のことだった。

『……若、様』

「名前、さっきのことで君の誤解を解きにきたんだ」

『なにが、です。誤解もなにもないでしょう?』

突き放すような言葉は勝手に出てきてしまい止まらない。

「あれは事故、なんだよ。カナちゃんがちょっとした段差につまづいてそれを僕が支えたんだ」

『別に抱き合っていたことは悪いことではないんですから、』

「僕の話を聞いて!誤解、されなくないんだ…」

若様の表情が悲しげで私は口籠もる。それにこんなに違うと言っておられるのだ。私の勘違いだったのだろうか…。

『本当、でございますか』

「うん、あれは事故だし僕とカナちゃんは決して恋仲なんかじゃない。断言できるよ」

『……よかった』

ヘナヘナ、力がいきなり抜けてペタンと座り込む。

「名前!?」

『よかったよかった…』

「なにがよかったの?」

『若様がカナ様と恋仲ではなく本当に……』

――え、私何を言って…。

「そうかい、俺とカナちゃんが恋仲じゃなくてよかったのか」

『若様!?』

顔を上に上げれば、妖しげに笑みを浮かべた夜の若様がいた。

「じゃあ、こうされんのも嬉しいのか?」

若様が言った途端、ぐいっと引っ張られ私は若様の腕の中に収まった。

『………』

「名前?」

恥ずかしすぎて、嬉しすぎて頭が正常に回ってくれなかった。

『わ、若様。名前は嬉しいです……っ…』

リクオのギュウと強まった力と赤くなった頬には名前はもちろん気付いていない。



(3/3)
>>