私は妖怪ではない。
しかしながら人間でもない。

そう、灰色なのだ。
とはいっても妖怪の血はほとんど流れていない。だから戦うことなんてできない。

こんな理由から私は若様の世話役に選ばれたのだった。













「名前ー家長はなにかやらかしてなかった?…あれ、なんでお菓子持ったままなの?渡しにいったはずじゃあ…」

ああ、忘れてた。つららに言われて手元を見る。

『忘れてた』

「ちょっと…大丈夫?」

『大丈夫だよ』

「熱でもあるんじゃない、横になったほうが…」

『大丈夫だってつらら』

笑顔で言った私につららは渋々ながら頷いてくれた。

今は動いていたかった、働いて先程のことを忘れてしまいたかった。

――1人になってしまったら泣いてしまいそうなんだもの…。

それから他の妖怪のもとへ仕事を手伝いに行ったのだった。
























「リクオくん?」

名前が走り去ってしまったあと、僕は呆然と立ち尽くしていた。

――絶対に名前に勘違いされた。僕とカナちゃんがそういう仲だって思われてしまったに違いない。

「ねぇリクオくん、どうしたの」

カナちゃんの声と肩に乗せられた手の感覚で我に戻った。なにやら不満そうな彼女は名前が去って行った方を見つめ額に皺をよせている。

「さっきの子、だれ?お手伝いさん?」

「………うん、そうだよ」

「そう、リクオくんはあの子のことが好きなの?」

「……え?」

「さっきあの子が入ってきたとき、リクオくん咄嗟にあたしのこと突き飛ばしたんだよ?抱きついちゃったとはいえ事故だったんだし…」

「ご、ごめん」

カナちゃんは腕を組みながらもぅ、と僕を睨んだ。

「だから…あたしはまだ帰ってあげない」

「へ?」

「あたしが帰ったらリクオくん、あの子に謝りに行くでしょ?帰らなかったら謝れない。仲直りはまだできないね、仕返しだよ」

ベーッと舌を出して言ったカナちゃんは先に部屋に戻って行った。

――女の子って難しいなぁ。

一刻も早く名前の誤解を解きたいものの、カナちゃんにああ言われたからにはちょっと間は無理だろう。



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