無意識のゼロセンチ
珍しいことではないが、隊士達が騒めいていた。

「どうしたんでィ」

「あっ、沖田隊長!実は…」

隊士が話した話はこのとおり。

「この部屋は今物置になってるんですけど…さっきからずっとすすり泣く声がするんです。それで、誰が見に行くかってじゃんけんしてまして……」

まず、馬鹿だろと思った。コイツら仮にも真選組の隊士だろ。……土方さんもこの手のものは無理だったなそういやァ。

「俺が行ってくらァ」

「えっ、ホントですか」

隊士達が嬉しそうに頬を緩ませた。

「だが、ちゃんと原因を突き止めたら。土方コノヤローの暗殺の手伝いをしなせェ」

「げ……はい」

しっかり暗殺の約束をして、物が自分の頭の高さくらいまで積んである部屋を奥へ奥へと進んでいった。

――ぐすっ、……うぅ

不意に聞こえたすすり泣きに体を固める。

奥へ進むほど大きくなるその音は隊士達が心配していたものではないと確信させた。

『ふぇっ…ずずっ』

「え、名前?」

『え、沖田ざん?』

だが、そこに居たのは思いもよらぬ人物だった。

『なんで、こんな所に……』

「そりゃ、こっちのセリフでさァ」

勿論、ここに居た理由も知りたかったがそれよりも名前が泣いていることに驚いた。

自然と自分の手が名前に伸びて、優しく頭を撫でた。

「理由はわかんないけど、…辛かったんだろィ?こんなとこまで来るなんて」

『お、沖田ざん……ぐすっ、』

「泣きなせェ」

『うう、うわぁぁん!』

大声で泣き出した名前をギュッと優しく抱き締める。

始めは小刻みに震えていた名前の体も、次第に止まっていった。

「大丈夫かィ?」

『ありがとう、ございます』

俺の腕にすっぽり入っている名前は自然に俺を見上げる形になる。あまりに近い距離と上目遣いに不覚にも照れてしまった。

おずおずと体を離し、さて帰るかと立ち上がった時だった。

名前の後ろになった段ボールを重ねたものが、何かの振動で倒れてきた。

「危ねェッ!」

『―…え』

ドダダダダ…

「…ってー」

ギリギリの所で名前の上に覆い被さり、段ボールの衝撃が背中に一気にくる。

『沖田さんっ!』

「名前は大丈夫、か?」

『私は大丈夫ですっ、それより沖田さんが…っ!』

さすがに量が多過ぎたか…。

遠退き始める意識の間に名前の涙が見えた。



無意識のゼロセンチ


意識の奥では、きみが俺に笑い掛けていた。



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mokuji