誰にでもスキだらけ
アイツ…最近入った新人の隊士か?
1人の男に連れられて名前がある部屋に入っていくのが見えた。何度も俺は言っているのに、一向に改善しないのは名前が純粋過ぎるからだろう。
なるべく音を立てないようにして、閉まった扉の前に立つ。中から男の声が聞こえてきた。
「…名前ちゃん、俺、前からキミが気になってて」
苛つく。好きな女に他の男が告ってんのを聞いて、いい気分になるやつはいないはず。とは言っても、俺の勝手な片想いだが。
「付き合ってくれないかな?」
いつ入ろうか。とりあえず名前の反応を……って俺。ストーカーみたいになって…いや、違う。名前が無防備過ぎるから。何かの時の為に助けに入るためだから。
『ありがとうございます。でも、私。今はお仕事に集中したいんです。お友達…ではいけませんか?』
「あ、……うん。なんかごめんね」
そろそろか。ゆっくりと扉を開けた。
「何してんでさァ」
「お、沖田隊長!」
「てめー、仕事はどうしたんでィ」
「今から…今から行きます!」
怯えたようにうわずった声と明らかに挙動不審な動き。少し笑えた。
『沖田さん、…もしかして聞いてました?』
「…別に」
聞いていた、とも言えなくて適当にはぐらかした。尚も疑った目を向ける名前の髪をぐしゃぐしゃにした。
『もぅ!何するんですか』
「男と密室で2人になるなって言ってるだろィ?」
『沖田さんに言われることじゃありませんよ。それに、今この状況もダメってことになりますよ』
「俺はいいんでさァ」
他には向ける笑顔も俺にはなかなか見せてくれない。イタズラのし過ぎも原因にあるかもしれないが。
『意味わかんないですよ…じゃあ私。お仕事の続きしてきます。沖田さんもちゃんとお仕事してくださいね。副長さんも大変なんですから』
「へいへい」
土方コノヤローの名前が出てなんか気分が悪くなった。部屋から2人共出て、反対方向に歩く。後ろから笑い声が聞こえて振り向いた。
『アハハッ、山崎さんホントにおかしいですよーそれ』
「そうかなー?皆は良いって言ってくれたんだけど…」
『…ふふ、なら良いんじゃないですかー?』
「えー、どっちなのさ」
華の様な笑顔で、また、周りを惹き付ける。自分でも無意識に。お陰で俺も安心出来ない。彼氏でもねーのに、な。
俺がこんなことでうだうだするなんて。らしくない。でも、それだけ名前を想ってしまってるということで。
誰にでもスキだらけ
危なっかしくて仕方ない。
名前がどっかにいっちまいそうで。
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mokuji