世界が変わる、音がした





※普通に大学パロ/情事後注意
※南沢がなんかバンドしてる







悪戯に髪を撫でられる。猫とか小動物を愛でるように、後ろから前に向かって。
子供扱いされているみたいで最初は嫌だったけど、すっかり南沢さんに絆されてどうでもいいと思ってしまっている自分がいる。
先輩は綺麗だ。顔も整っていて、身体のラインもすらりとしていて、なんだかやらしい。
別に馬鹿にしている訳ではなくて、れっきとした褒め言葉のつもりだが、南沢に言ったら不機嫌な顔をされたから、あまり一乃は口にはしていないけれどやっぱりやらしい。

『先輩の指ってなんだかつるつるしてますよね。指紋もあんまり無いですし。けど右手はちょっと固いですね』

そんな南沢の身体で、一乃の最近のお気に入りは指だった。南沢の手を取って、そっと皮膚と空気の狭間、輪郭をなぞるように触れる。
今の今まで自分の身体を溶かしてぐずぐずにした、指。長くて細くて、女の人の指みたいに細長く爪は磨かれているのか艶がある。この指が、自分のナカを蠢いていたのかと考えると、やっぱりやらしい気分に浸ってしまう。
頭を撫でていた手を、南沢は自分でも見てみる。確かに指紋が薄くて、つるつるとまでは行かずとも滑らかだった。右手の指先も同じだが、固く豆みたいになっている。

『バンドしてるから、指紋が擦り減ったんだよ、多分』
『南沢さん、バンドしてるんですか?!』
『言ってなかったか?バンドのベースとボーカルやってるって』
『初耳です』

そこそこ長い付き合いだと思っているが、そんなことを聞いた覚えは無かった。南沢の部屋にギターがあるのも知らない。誰とバンドを組んでいるのかも。
なんだか南沢のことをちっとも知らないような気がして、悔しい。
『弾いてるところ見たいです、南沢さん此処で弾いてくださいよ』と、ねだった。ちょっと考える素振りをして、南沢は一乃の頭を撫でた。
さっきまでは好きなことの一つだったのに『此処は防音じゃないから無理』と、そう言われてからされると、はぐらかされているようにしか思えない。

『いつ、ライブとかやってるんです?何処ですか?俺、聞きたいです』
『そんなに焦るなよ。暫くはライブは無いから、次ある時に誘ってやるから』
『暫くライブ無いんですか…』

嘘ではないけれど、暫く無いと聞いた後の一乃が、あまりにも残念そうにしているから、南沢はどうにか聞かせたくなる。なんだか小動物を虐めたような、嫌な気持ち。
此処は防音ではないし、カラオケで一人で弾くのは物足りない。一乃の頭を撫でながら、ちょっと黙って思考を巡らせる。
何を思ったのか、南沢は立ち上がって棚の中を掻き回して、何かを探し始めた。『何してるんですか?』と質問して、シーツの中から足を出した。セックスをした後の部屋の空気は甘く、足に纏まりついた。

『確かこの棚に、前のライブのCDがあると思う…お、やっぱり有った』

棚から一枚の何もジャケットに描かれていないCDケースを取り出した。いつのライブだっけ?と自問自答をしながら、CDプレイヤーに、ケースから取り出したCDを南沢は入れる。
その様子を、ベッドに転がりながら一乃は眺めていた。そんな一乃の耳に、ヘッドフォンを南沢はぶっきら棒に嵌めた。南沢は『先に言うけど、下手だから』そう言ってから、隣で少し恥ずかしいのをごまかすみたいに枕元にあった雑誌を開く。

始まった。
音楽が、ギターがベースがドラムが、歌が、聴こえる。南沢さんの声が、普段とは違って聞こえた。滑らかな憂いを含んだ歌声。知らない他人の歌声みたいだけど、やっぱり南沢さんの声で、どちらかと言えばセックスの最中で自分の名前を呼ぶ声に似ている。
この声を、独り占めしたい。

『南沢さん…スッゴく歌上手いですね。全然下手じゃないですよ…歌もベースも』
『そっか、』

一曲が終わった。間髪入れずに拍手が聞こえる。この拍手は、この人の為に贈られた拍手。
惚れたとか、そんな気持ち抜きに感動した。知らないことをまた一つしれた。
率直な感想を南沢に言うと、やっぱり恥ずかしいのか愛想の無い返事が返ってくるだけだ。雑誌のページを、南沢は一枚めくった。
感動を与える歌を紡ぐ唇、素晴らしい音を奏でる指。その全ては、セックスをする時だけは自分の物になる。それに似た声を、他の人も聞いていると思うと一乃は嫉妬を覚えた。
知らず知らずに積極的になっているように思う。恥ずかしいとか、女々しいとか、何やってるんだとか考える。そんな羞恥心など欲望とか嫉妬にはいとも簡単に負けてしまった。
さっきの歌声みたいな声を独り占めにして聞きたくて、一乃は南沢を誘うように雑誌を取り上げて口づけた。














































南七企画提出作品
ライブ行ったら浮かんだ突発テキスト
ボーカルとかギター弾く南沢さんとか素敵だと思う